藤浪晋太郎の“カタキ”を近本光司が取った。そう思ったのは7回の攻撃だ。この試合、中日は失策が目立っていた。3-1で阪神がリードしていたこの回も1死から失策で走者が出た。その直後。近本が三塁前にセーフティーバントを転がし、1死一、二塁の好機をつくったのだ。

救援陣が打たれ、勝利投手になれなかった藤浪だが6回1失点は好投だろう。その1点は自身のボークで与えたもの。2回、2死三塁。振りかぶって投げる藤浪を揺さぶるように三塁走者・京田陽太が離塁した。一瞬、気を取られた藤浪はすでに始めていた投球モーションを止めてしまった。

中日側からすれば、これは素晴らしいプレーだ。復活の気配を感じさせる藤浪からそう簡単に連打、得点はできない。こんな形でも点は取れるというお手本のような攻撃だった。

ここで昨年8月4日の巨人戦を思い出す。菅野智之に対してバント作戦をしなかったことをこのコラムで批判した。梅野隆太郎の打球が足に当たった直後。痛みをこらえて投げる菅野を相手に木浪聖也、植田海が普通に打って、倒れた。

打者の顔ぶれを考えてもここはバントで揺さぶらなければいけない、相手が弱っているところを突かないでどうすると指摘した。書いた後で、でも今どきの感性ではそういう考えは受け入れられないのかな、と思ったりもした。

だが後日、大人の事情で名前は出せないものの、ある阪神OBがそのコラムを読んでいたようで、こんな話をした。「やはり、そう見ていたんですね。ボクもあの攻撃を見て、ああ、今年も勝てないなと感じました」。

相手がスキを見せたり、嫌がったりしているときに一気に襲いかかるのがプロだろう。それと同じように、イヤなことをやられたらやり返すのもプロだ。この日、近本がどう思っていたか、この時点では分からないが、自軍がやられたイヤなことをやり返したと言える。もっと言わせてもらえば、その7回の攻撃で追加点を奪えなかったことが8回以降の逆転負けにつながったのかもしれない。

とにかく打撃不振だった近本にそういうことをやれる余裕が出てきたのはプラス要素だ。勝ちパターンの救援陣が打たれ、痛い敗戦なのは事実。しかし次戦につながる場面もあった。次こそ、ホーム初勝利といきたい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)