今季初、敵地での巨人戦はいかにも東京ドームという空中戦だった。

両軍合わせて6本塁打。1本塁打に終わったものの巨人は外野フライが「13」(2犠飛含む)。一歩間違えれば、どうなっていたか分からない試合だった。

しかしポンポンと打球が舞い上がる中、長打とは関係ないプレーが印象に残ったのだ。3回。マルテ、大山悠輔に連続弾が出て5点リード。巨人は先発サンチェスから新人・平内龍太に交代した。その平内から四球を選んだ佐藤輝明が盗塁死し、2死走者なしに。

ここで7番梅野隆太郎の打球は一、二塁間の微妙なところに転がる。これを吉川尚輝がうまく回り込み、二ゴロに仕留めた。このとき梅野は一塁にヘッドスライディングを敢行した。

頭から滑り込むのはケガの危険がある。それでなくとも梅野は18日ヤクルト戦(甲子園)でワンバウンドの球を右手親指に当て交代したばかり。出場もどうかな…と思っていた中でのこのプレーだ。「楽勝ムードだし闘志は分かるけどやり過ぎでは…」。一瞬、そう思ってしまった。

ところが、だ。先発西勇輝がその裏に3失点。結局、5回4失点で降板している。これもあって中盤までは接戦になった。中5日とあって本調子ではなかったのか。なによりそれを実感していたのは梅野だろう。だからこそ「1点でも多く」という気持ちがあの“ヘッスラ”に出たのかもしれない。

終わってみれば巨人は5得点。阪神は3回までの得点では勝てていなかった。ヘッスラを「やり過ぎでは…」と思った自分の不明を恥じ、あらためて梅野の勝利への執念を感じたのだ。

サンチェスをKOした5点だけでは勝てていなかったが阪神打線は巨人が繰り出すブルペン陣からさらに5点を奪った。その中、7回2死満塁で梅野が放った2点適時打が大きかったのも間違いない。

「ベンチにいた野手のほとんどを使ったと思います」。指揮官・矢野燿大は10-5の勝利をそんな言い方で振り返った。9回打ち切り特別ルールの今季、選手を効果的につぎ込む戦いを矢野は続けている。

そしてゲームセットの瞬間、阪神で守りについていたスタメンは中堅・近本光司と梅野、中野の3人。昨季、屈辱を味わった東京ドームでの圧勝発進。そこには正捕手・梅野の存在感があった。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

巨人対阪神 7回表阪神2死満塁、2点適時二塁打を放つ梅野。投手高木(撮影・狩俣裕三)
巨人対阪神 7回表阪神2死満塁、2点適時二塁打を放つ梅野。投手高木(撮影・狩俣裕三)