巨人丸佳浩に代打が出たのには少し驚いた。丸は「1人リーグ5連覇男」だ。新型コロナウイルスの影響もあり不調とはいえ、坂本勇人を欠く巨人打線にあっては岡本和真と並び、中心のはずと思うからだ。

敵将・原辰徳はチームが勝つために最善の策を取るタイプの監督だ。その際に“選手の名前”は気にしない。口で言うのは簡単だが実行できる人物は少ない。成功するか失敗するかは別にして、そこが原なのだ。

その場面を見て闘将・星野仙一を思い出した。星野は原とは違うスタイルの監督だった。言葉はよくないが、いわゆる「心中野球」が信条だ。自分が起用した選手が不調でも、そこは「死なばもろとも」で負けを受け入れる。「それがいいのかどうか。オレにも分からんけどな」。自身のやり方について、そう苦笑したこともあった。

その星野は「ダメ虎」を変身させ、03年に阪神を優勝させた。のちに「なぜあの年は勝てたのか」と聞いたときのこと。金本知憲の加入した打線が機能した、あるいは伊良部秀輝の加わった投手陣が頑張ったという話をするのか、と思ったらまるで違った。

「そりゃ、お前、ゴジラが抜けたからやないか。巨人に松井秀喜がいたらまた違っていたと思うぞ。優勝するには自軍が強くなることは当然だが相手の力が落ちることも大事な要素だ。相対的条件があるんや」

意外な答えに少し驚いたが勝負師のモノの見方に納得したことを思い出す。02年限りで巨人を去り、大リーグに移籍した松井が残っていればもっと巨人に苦戦していたかもしれないことは十分、想像できた。

この試合、阪神ナインは引き締まっていた。2回、三塁に進む走者を刺した近本光司の送球。強い当たりを懸命に止めたマルテ、糸原健斗。巨人を相手に1歩も引かない姿勢を見せた。

昨年までコテンパンにやられた相手に対し「今季は違うで」という自信のようなものが選手たちの姿からあふれていた。技術ももちろんだが気持ちで負けていれば勝負にならない。その面で今の阪神ナインはなかなか頼もしい。

ぜいたくを言えば丸が復調し、坂本が戻った強い巨人ともしっかり戦って勝つ。そんなチームになって優勝できれば最高だろう。そのためにも、まず今は乗れない相手をたたく。ここは一気に3連勝だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)