あのときのように輝けるか。DeNAとのクライマックスシリーズ、期待するのはズバリ、北條史也だ。19年も同じ球場、同じ状況での対戦。そこで目立ったのは北條だった。

初戦、7回にエスコバーから2点差に迫る3ラン、8回には国吉から逆転のタイムリー三塁打を放った。あのときのゾクゾクする感覚は今も忘れない。藤浪晋太郎がドラフト1位で入団した年の同2位。高卒の新戦力として期待していた男がここ一番での大仕事だ。この試合、北條は3ランを含む1試合5打点。決着は第3戦までいったがこれが阪神に流れを作ったと言える。

北條の同学年にはスターが多い。大リーグMVP候補のメジャーリーガー大谷翔平。そして広島、日本の主砲から大リーグ入りした鈴木誠也だ。前監督・金本知憲のときは「誠也にあやかれ」ということで「北條セイヤです」などと言わされていた。

そして同じく期待されつつ苦しい歩みを続けてきた藤浪晋太郎はこのオフ、ポスティング制を利用してメジャー移籍を目指すという。世の中自体がそうかもしれないが、この世界、とにかく変化が激しい。19年のCSは能見篤史が投げていたし、DeNAには筒香嘉智がいた。CS敗退が決まった日、横浜スタジアムを出る筒香の周辺は移籍情報であわただしかった。

北條は故障したり、コロナになったりしながらも、そんな世界で生きてきた。正直、大谷や鈴木のように大成功はしていない。でもいつか何かやってくれそうな気配を漂わせる。そんな選手という印象だ。

その北條、ウオームアップのとき、グラウンドで1人、逆立ちをしている場面がある。野球選手としては結構めずらしい光景だ。あれは何か。1度、聞いてみたことがある。

「自分のバランスを確認してます。ボク、子どものとき野球だけではなく、器械体操も習っていて。逆立ちすると自分の感覚みたいなんが分かってくるんです」。例のとつとつとした大阪弁で教えてくれた。

北條には指揮官・矢野燿大も期待している。「ジョー(北條)は存在自体が流れを変えるムードがある男なんで。アイツが来るとみんなが元気になるんで」。そう話していた。

もちろん北條に限らず、ラッキーボーイが出てくるのは短期決戦には必要である。さあ、CS。北條の「逆立ち」から阪神の「下克上」が始まるか。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)