新指揮官・岡田彰布が秋季キャンプの練習前にゲキを飛ばした。詳しくは虎番記者の書く「語録」などで読んでもらうとして、思い出したことがある。打撃コーチとして阪神に復帰した今岡真訪のことだ。

20年前の02年。そのシーズンに今岡は野球人生をかけた。前年までの指揮官・野村克也の時代に不遇を囲い、選手寿命も尽きかけていたように見えた。ひょうひょうとしたプレースタイルが持ち味の今岡を野村は「やる気が見えない」と好まなかったからだ。しかし監督が星野仙一に変わり、今岡は再起を誓う。過去にこんな話を聞いた。

「星野監督になった02年2月1日にボクは野球人生をかけました。絶対にレギュラーをとるつもりだった。とにかく『オレは、今岡は死んでませんよ』ということを訴えたかった。しぐさ、態度、行動、全部、その気持ちでやりました」

特に意識したのがウオームアップだ。「キャンプのウオームアップから全力を出し切りました。実はキャンプで選手全員がそろうのはアップのときしかないんです。監督にアピールするように強い気持ちを持って、そこで全力で、死ぬ気でやりました」。

その今岡に星野は言った。「チャンスはやる。ダメなら終わりや」。発奮した今岡は二塁の定位置を獲得。その後、03年の優勝、そして岡田政権になった05年のVにも大きく貢献した。

知る限り、岡田はほとんど「精神論」を口にしないタイプだ。あの年齢の人物としては不思議なほどである。前監督の矢野燿大はそこを強調した。「勝敗だけではない。引退した後の人生にも生かせるようにプレーしよう」。そんな矢野の思いは本物だったし、共感する部分もあった。

しかし率直に言わせてもらって「矢野の教え」は少々レベルが高かったのではという気もしている。思い、哲学は選手側が欲してこそ伝わるもの。若者がすぐに実感するのは難しかったようにも感じている。

それでいけば「若手の主力がランニングから先頭で引っ張っていけ!」というのは単純明快。同じく精神論で「何の意味がある」と言えば、それまでだが、分かりやすいではないか。

「何か変わりましたか?」という記者の質問に「そんなん、変わらへんよ」と岡田は笑ったそうだ。意味があるとかないとかではない。野球はそういうもの。なかなかいい感じだ。(敬称略)

先頭に立ちウオーミングアップする、左から阪神西純、伊藤将、中野、佐藤輝、大山。手前は岡田監督(撮影・前田充)
先頭に立ちウオーミングアップする、左から阪神西純、伊藤将、中野、佐藤輝、大山。手前は岡田監督(撮影・前田充)