虎党で埋まった神宮球場の三塁側、そして左翼スタンド。そこへ向かって指揮官・岡田彰布は手を振りながらゆったり歩いた。快勝の余韻を感じながら-。その姿を見て、15年前のことを思い出した。
今季と同じく岡田の下で「歴史的V逸」となってしまった08年。その最終盤、10月4日の神宮で“事件”は起きた。ヤクルト戦は2-2で延長12回引き分け。試合後、引き揚げる岡田にファンからきついセリフが飛んだ。「おまえは選手の信頼を失ってるんだ!」。
ヤジには慣れているはずの岡田だったが、これに激高した。「何! いま、何、言うた!」。そう叫びながらネット越しにファンに詰め寄ったのだ。
「びっくりしました。本当にキレた感じで。みんなで止めていましたけれど。あとで監督付広報に『おまえも何か言わんか!』と怒ったりして。なんとも言えない雰囲気でしたね」
岡田の横にいた当時の日刊スポーツ・虎番キャップで現在は編集局次長の町田達彦はその光景を忘れられない。ヤクルトと引き分けた時点で阪神はまだ首位だったがそこから続く横浜、巨人戦の関東遠征で苦戦し、陥落。岡田の引責辞任につながっていく。
早大時代、選手として活躍した神宮で屈辱の経験ともなったのだが、今季はそこでもリベンジに成功したと言えるかもしれない。ヤクルト戦はこれで16勝6敗1分け。全日程を終えた巨人戦(18勝5敗1分け)に続いての2桁貯金だ。
いつも書くけれど阪神や広島、あるいは中日は「在京セ」に比べ、不利な面がある。ビジターゲームに遠征がつきまとうからだ。例えば巨人なら東京ドームの次がヤクルト戦やDeNA戦でも自宅から通える。ヤクルト、DeNAも同様だ。頑強な選手とはいえ、移動の疲労は、やはりある。それを思えば阪神が在京の2チームから同時に2桁貯金をつくるなど過去にあったのか? と思った。
記録部に調べてもらった。もっとも最近で85年にヤクルト(17勝7敗2分け)と大洋(当時=17勝6敗3分け)から2桁貯金して以来だという。ここでも「85年」が出てきた。阪神唯一の日本一を達成したシーズンも阪神は東で大暴れしていたのだ。と言いつつ、ヤクルト戦はまだ2試合残すので最終結果は分からない。雨天中止になった22日の同カードはくしくも「10月4日」に入った。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)