ちょっとめずらしいかも…と感じる光景が展開されたのは1回、阪神の攻撃時だ。1死から2番・中野拓夢が中前打で出た。3番・森下翔太は中飛に倒れ、2死一塁。ここで打席は4番・佐藤輝明にまわった。

ここでヤクルト先発の奥川恭伸はボールが先行し、カウント2-0。その3球目で中野が盗塁を狙ってスタート。しかし刺され、盗塁死でチェンジに。その瞬間、佐藤輝は二塁ベース方向をじっと見つめていた。

4番打者が打席にいるとき、一塁走者はあまり仕掛けていかないのは普通だ。野球の基本…と言っても時代や状況によって変わるものだろうが、基本的には今でもそうではないか。

この場合、盗塁成功なら2死二塁で得点圏に走者が進む。一塁が空けば4番打者は歩かされることも想定される。盗塁成功の場合、佐藤輝のカウントは3-0だった。申告かどうかは別にして、事実上、敬遠されていたかもしれない。

阪神にすれば、それで2死一、二塁で5番・大山悠輔となるし、意味ある作戦だ。それでも、あまり佐藤輝の打席で一走は走らないし、今季ここまでそういうシーンも記憶ないかな…と思った。いつもなら「しっかり打ってや」という場面だろう。

では、なぜ、この日、そうしたのか。やはり、そこには佐藤輝の不調があるからでは…と想像したのである。走者は一塁より二塁にいる方が当然、打者にとってはいい。奥川の投球にプレッシャーをかけ、佐藤輝を援護することができる。

「作戦は常に。チャレンジしながら、お互いですね。それが野球ですから」。指揮官・藤川球児は「1回から中野が仕掛けたが」という虎番記者キャップの質問に、いつものように、そう答えるだけだったが何かを動かそう…という意図は見えた気がする。

主軸打者が打てないときに状況をなんとかしようとするのもベンチの仕事。極端な場合、あまりに不調なら主力打者でもランエンドヒットなどのサインが出るケースもある。

もちろん、あの盗塁がどこまでそんな意味を含んでいたのかは分からない。佐藤輝の不調に直接関係ない作戦だった可能性もある。それでも4回、佐藤輝は貴重な追加点となる32号ソロを放った。彼自身、1回の光景で気合が入ったかもしれない。ベンチ全体で“流れ”を呼び込んだムードを感じる試合だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ヤクルト対阪神 1回表阪神2死一塁、中野は二塁盗塁を阻まれる。遊撃手長岡(撮影・浅見桂子)
ヤクルト対阪神 1回表阪神2死一塁、中野は二塁盗塁を阻まれる。遊撃手長岡(撮影・浅見桂子)