「やりきった?」と聞くと「ハイ!」と即答した。

3年連続の準々決勝進出を果たした古豪・小倉工が、センバツ8強で優勝候補の筑陽学園に敗れた。序盤から積極的なスイングで攻め続け、3回途中にはプロ注目右腕・西舘昂汰を引きずり出した。「疲れてきたところで、直球を狙うぞ」。ベンチで言い合い、終盤には4本の長短打で3点をもぎ取る。7回と9回に二塁打を打った5番高橋駿介(3年)は冒頭の言葉どおり、すがすがしい顔で試合を振り返った。「勝つなら僅差でサヨナラかなって。筑陽が一枚上手でしたね。整列のとき、西舘君に『頑張れよ』って声を掛けました。きつかった2年半だったけど、今日は楽しかった」。小倉工ナインの目に涙はなかった。

「5回まで3点差なら100点。5点差なら80点だ」。牧島健監督(30)は試合前、選手たちに終盤勝負を掲げた。「西舘対策」で練習したことは2つ。西舘の速球(最速145キロ)を想定し150キロ設定のマシンで打ち込んだ。さらに、西舘の高身長(187センチ)に合わせて上から投げ下ろすカーブ打ちの練習もしてきた。「練習したとおりに打てた」と高橋。5回戦でもサヨナラ打含む3安打を打った男が、迷いないスイングで逆方向へ打球を運んだ。「牧島先生からずっと『公立は私立に比べて強くないと思われている』と言われていたので、そこを崩したかった」と誇らしげに語った。

■生徒たちの気持ちを邪魔したくない

牧島監督の戦術に、スクイズという選択はない。この日も7回に1死三塁の好機があったが「打て」のサインを貫いた。その意図を「生徒たちの『打ちたい』という気持ちの邪魔をしたくないんですよ」と話す。「(ヒッティングの指示は)バッターにプレッシャーがかかりますが、そこも抱えながら打ってほしいので」。母校・福岡工大城東時代に杉山繁俊監督(61=現東海大福岡監督)から学んだ「相手にアウトカウントを与えずに1点を取る野球」が土台になっている。平日の練習は他部との共用グラウンドのためフリー打撃はできないが、「学校は公立、野球は私立」をモットーにケースバッティングなどで戦術に磨きをかけてきた。環境面のハンデなど「公立」であることを言い訳にしない。

昨秋は準決勝で九国大付に1-5で敗れ「あと1勝」で九州大会出場を逃した。冬は筋力トレーニングを強化。この夏はラグビー部のタックルマシンを使って、本塁へのスライディング(回り込み)練習をするなど「1点を取る執念」へのこだわりも強めてきた。「準備と対策があれば強豪私学を倒すことができる」(牧島監督)。5回戦で念願だった母校との初対戦も果たし「打倒筑陽」に燃えていた。「(西舘を)3巡目で攻略しようと思ったんですけど、動くボールにやられました」。ガハハと笑い、負けん気をしまい込んだ。

まだ30歳。「次世代のリーダーになりうる存在」。他校の指導者は牧島監督をそんなふうに呼ぶ。試合前には球場周りでゴミ拾いをするなど、徳を積むことも忘れない。「打倒私学で、あと3勝」。この壁を破るため、また一から生徒たちと取り組んでいく。【樫本ゆき】

根拠のあるイケイケ野球。この夏は勇気をもってバットを振り、皆で喜び合った
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