シンデレラボーイが大仕事だ。秋田商の2番草■(なぎは弓ヘンに前の旧字の下に刀)輝也(3年)が、チームを35年以来80年ぶり、戦後初めて8強に導いた。3-3の延長10回2死三塁から、左前に決勝打を放った。今春レギュラーとなった身長163センチの遊撃手が、勝負強さを発揮した。

 ベンチの選手、アルプス席の控え選手と応援団の期待を、成り上がりの男・草■は受け止めていた。二塁走者・会田海都主将(3年)が胸をたたいて「気持ちでいけ」のジェスチャー。太田直監督(36)の「取り返せ」の大きな声も耳に入った。暴投で会田が三進した10回2死三塁。「責任がある。打とうと思った」。

 4球目を捉えた。80年ぶり8強を呼び込むタイムリーを左前に運んだ。7回の遊撃の守備では、アウトカウントを勘違いして併殺プレーを怠るなど、記録に表れないミスがあった。6回から登板した高崎健康福祉大高崎の2番手左腕川井智也(3年)には、10回2死までパーフェクトに抑え込まれた。「今日はバットを短く持っていたけど、さらに短くした。指2本分」。コンパクトに振り抜いて、ミスも帳消しにした。

 太田監督が「1年秋まで存在も名前も知らなかった。能力的にはベンチ外」と言うほど、まったく目立たなかった。ところがダッシュなど1つ1つの練習は常に全力。冬場はチーム、自主、自宅練習を含めて1日1500スイングをこなした。そのひたむきさが、今春から初めてベンチ入りし、レギュラーをつかんだ支えになった。

 太田監督は「そういう頑張りに頭が下がる思い。彼も3年前、こうなるとは思っていなかったでしょう」と、目に涙をためながら殊勲の一打を喜んだ。現チームの主力は、昨秋から2年生が多く占めた。そんな状況に会田主将が3年生を集めて「このままじゃダメだ」と、最上級生に奮起を求めた。そのゲキに大きく応えた1人が草■だった。秋田大会では、打率5割を残して優勝に貢献した。

 延長戦は過去3戦3敗と勝てなかった。シンデレラボーイの一打がジンクスを打破した。2年前の夏、アルプス席で応援していた草■は「スタンドにいる(選手の)気持ちは分かっている。3年生の分もやらなきゃいけない」。60年春に4強がある秋田商の夏の最高は8強。1922年(大11)の創部から94年目。高校野球100年の節目に、歴史を変える時が来た。【久野朗】

 ◆草なぎ輝也(くさなぎ・てるや) 1997年(平9)6月14日、秋田市生まれ。戸島小3年の時、戸島スポーツ少年団で野球を始め遊撃手。河辺中では軟式野球部。163センチ、62キロ。右投げ右打ち。家族は両親と兄、妹、祖父母。

 ◆秋田商の夏の延長戦 25年2回戦で敦賀商に延長11回4-5で敗れたのが初めて。61年は桐蔭(和歌山)との2回戦で10回0-1。76年の2回戦では天理に12回まで戦い4-5と惜敗した。今夏は39年ぶりの延長戦だった。

 ※■は、弓ヘンに前の旧字の下に刀