プレーバック日刊スポーツ! 過去の8月21日付紙面を振り返ります。2006年の1面(東京版)は、早実-駒大苫小牧が甲子園決勝で延長15回引き分け。37年ぶりの再試合となったことを伝えています。

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<全国高校野球選手権:早実1-1駒大苫小牧>◇20日◇決勝

 早実(西東京)と駒大苫小牧(南北海道)の決勝は壮絶な投手戦となり、1−1でともに譲らず延長15回引き分け再試合となった。夏初Vを目指す早実は、3連投の斎藤佑樹(3年)が再三のピンチをしのぎ、8回の1失点だけで178球、7安打16奪三振完投。最終15回にこの日最速の147キロをマークする熱投で、夏3連覇を目指す駒大苫小牧・田中将大(3年)と球史に残る投手戦を繰り広げた。斎藤は今春センバツに続く2度目の引き分け再試合。69年松山商(愛媛)−三沢(青森)以来37年ぶり2度目の決勝引き分け再試合は、今日21日午後1時から行われる。

 斎藤の体のどこにこんな力が残っていたのだろうか。規定により最終回となる延長15回表2死。173球目。4番本間篤に真っ向勝負を挑んだ。初球ストレートが、この日最速の147キロを計測。超満員5万人で埋まった甲子園が、地鳴りのような歓声に包まれた。前の打席まで得意のスライダーで打ち取っていた相手主砲に、最後は5球連続でストレートを投じていった。

 147キロ、143キロ、147キロ、146キロ、146キロ。そうしておいて最後は133キロフォークで空振り三振に仕留めた。極限状態で見せた斎藤の精神力、そしてクレバーさ。三塁側アルプス席から「斎藤コール」がこだました。この時点で、早実のこの日の負けはなくなった。

 壮絶な投げ合いだった。駒大苫小牧の「怪物」エース田中への闘争心が、斎藤の心をさらに強くした。「男と男の勝負ですから」と、珍しく熱い言葉を口にした。昨秋の明治神宮大会準決勝で初対決。149キロ直球でスイスイと三振を奪う怪物に「すごい投手」と圧倒された。だが、今は違う。「同じ高校生としてビビっちゃいけない。田中君は調子を崩しているので、自分たちの勝ちはある。人生で一番大切な日になる」と臨んだ大一番だった。

 早実・和泉実監督(44)は感極まった。「斎藤は本当によく投げてくれた」。そう言うと、涙がこぼれないように天井を見上げた。「周りからスタミナがあるといわれるけど、体力じゃなく、精神のスタミナのこと。うちは斎藤しかいない」と話した。延長11回1死満塁のピンチでも動じなかった。スライダーを投げようと足を上げた時に、三塁走者が走り出したのを見てスライダーの握りのままボールをたたきつけた。ワンバウンドさせて打者のバントを空振りさせた。三塁走者をアウトにし、ピンチをしのいだ。

 「氣力」。ソフトバンク王監督がいつも色紙に書く言葉は、早実野球部に脈々と受け継がれている部のモットーでもある。準決勝以降、王監督から届いたメッセージは「気力のみ」。勝負の世界を知り尽くした偉大なOBの言葉を、王監督が背負ったエースナンバーを継承した斎藤がピッチングで示してみせた。

 今日21日の再試合もマウンドに上がるつもりだ。4連投になるが、田中との投げ合いにロースコアでの戦いを覚悟し「もしかしたら再試合もあるのかなと思っていた」と言ってのけ、「明日(21日)も大丈夫。今日できなかったので完封をしたいですね」と、真顔で話した。

 18日の準々決勝(対日大山形)で9回144球、準決勝(対鹿児島工)で9回113球、この日15回178球を投げ、3日間で合計435球を1人で投げ抜いた。奪った三振は1大会歴代2位の通算65になった。それでも「もう1日、高校野球が続けられるのでうれしい。明日勝って、自分にリベンジしたい」と、あくまでもマイペースを強調した。今春センバツ2回戦の関西戦で、延長15回引き分け再試合を経験。その時は再試合で投げ勝ったものの、続く準々決勝の横浜戦で力尽きた。「3連投で勝つ」ことが自分への挑戦なのだ。

 球史に残る一戦で、斎藤がさらなる進化を遂げる。この日夜は西宮市内の宿舎に取り寄せた、ベッカムも使用したという高酸素濃度カプセルで体力を回復。「仲間も守ってくれる。明日も楽しみます」と心憎いまでに冷静に話した。激戦続きの今夏甲子園。今日午後1時、再び決戦の先発マウンドに上がる。

※記録や表記は当時のもの