<君の夏は。>

 バスケットボールに例えるなら、まるでダンクシュートのような迫力あるプレーだった。立花学園・辻内就登(しゅうと)遊撃手(3年)に迷いはなかった。1点リードの3回1死二塁。2番打者の打球が三塁後方のファウルゾーンへ上がった。辻内はラバーフェンスに激突しながら左手で好捕した。

 「打った瞬間捕れると思って走った」。今年1月の練習中に左手の有鉤(ゆうこう)骨を骨折したが迷いはなかった。「ボールだけ見ていた。とにかく、捕れてうれしかった」。4回1死二塁では三遊間を抜けるゴロに飛びつき、すかさず三塁へ送球。アウトにすると、再び大歓声がわき起こった。

 父聡さん(45)と母春枝さん(47)は高校時代、バスケットボール部だった。「就登」はバスケのシュートから、兄椋太(りょうた)さん(21)の名も、高校バスケを題材にした名作「SLAM DUNK」の登場人物から名付けられた。しかし、辻内も兄も選んだのは野球だった。両親の期待に応えられなかった分も必死に練習した。阪神鳥谷らの動きを見て研究し、守備範囲を広げていった。

 劣勢でも声を張り「立花学園の元気印」とまで呼ばれる辻内が、負けたと思う瞬間があった。「試合前、母から『声の大きさを勝負しよう』と言われた。負けないぞ! って返したけど、やっぱりあっち(の勝ち)でした」。鉄壁の守備も母にはかなわなかった。強力打線が売りのチームで辻内は2打数無安打。敗れたが、全ての人を魅了した。【和田美保】