明徳義塾(高知)が劇的な逆転サヨナラ勝ちで初戦を突破した。4-5の9回2死から反撃。一、二塁から4番谷合悠斗外野手(3年)が、センバツ11年ぶりのサヨナラ弾をバックスクリーンへ運び、馬淵史郎監督(62)の甲子園通算50勝目に花を添えた。高知県勢は春90勝となった。智弁学園(奈良)は日大山形に、智弁和歌山は富山商にそれぞれ逆転勝ち。智弁和歌山・高嶋仁監督(71)は甲子園通算65勝となった。

 白球がバックスクリーン下に飛び込んだ。どよめきが甲子園を包む。一塁ベースを蹴って、谷合が右手を突き上げた。センバツでは07年以来となるサヨナラ弾。逆転3ランだ。明徳義塾のナインが本塁で歓喜の輪を作った。「うれしかった。監督に50勝をプレゼントできてよかった」。9回裏2死からの逆転劇。あと1人で初戦敗退という窮地を、4番が救った。

 「泣き虫」の意地だった。1年前の春は、初戦の早実戦で本塁打を放ちながら、9回のサヨナラ機で三振。夏の前橋育英戦(2回戦)では最後の打者になった。1年夏から甲子園を経験しながら、4番の重責と苦闘した。本来は気の強い性格。監督やコーチは谷合の良さを引きだそうとあえて厳しく指導。「何で、できんのや!」。そう言われると、子どものように泣きじゃくるという。できない悔しさが感情となって、あふれ出た。

 昨秋の神宮大会は「どん底だった」という。大会後に、医師から右肘と疲労骨折した左足首の手術を勧められた。春を考えると、迷った。「絶対に間に合うから、手術したらいい」。馬淵監督が決断を後押し。左足首には、まだボルトが入ったままだ。それでも直近の練習試合では11戦で5本塁打。苦しみを乗り越え、精神的に強くなった。

 明徳義塾は今回の出場から練習着の袖と帽子のツバの裏に、「トンボ」のイラストを描いた。後退せずに、前にしか進まないことから「勝ち虫」と呼ばれる。さらに勝色であり、武士に好まれた濃紺で彩る。「勝つためなら、どんな縁起も担ぐ」と馬淵監督は言う。不退転の決意で、紫紺の優勝旗を取りに来た。

 谷合は8回まで併殺打を含む4打数無安打。最終回の打席で、弱気が顔をのぞかせた。「無理かな、という気持ちがあった」。しかし、自分に言い聞かせた。「食らいついて、思い切っていく」。トンボのように、前に踏み出した。失投を見逃さず、バットを振り抜いた。起死回生の1発。昨秋の神宮王者が奇跡を起こした。【田口真一郎】