初出場の日本航空石川は明徳義塾(高知)に3-1で逆転サヨナラ勝ち。1点を追う9回に原田竜聖外野手(3年)が左越え3ランを放ち、優勝候補を撃破した。

 日本航空石川の3番原田がフッと笑った。「阿部さんが笑ってる…」。0-1の9回裏無死一、二塁。明徳義塾ナインがマウンドに集まるのを横目に「自分で決める」と興奮していた時だった。左翼スタンド最上段に目をやると、大手金融グループの巨大広告パネルに、笑顔の俳優阿部寛の写真があった。力がスッと抜け、初球に狙いを定めた。

 甘いスライダーを振り抜くと、打球は“下町ロケット”のように「阿部寛」の方向へ一直線。逆転サヨナラ3ランを確認し「信じられない」と右拳を掲げた。大会前の甲子園練習で智弁学園出身の上田耕平コーチから「緊張したとき、われに返るものを見つけろ」と助言された。そこで原田は左翼スタンドの広告で唯一写真が用いられていた「阿部寛」に目を付けた。とは言いつつ「実はテレビで顔は知っていたけれど、名前が分からなくて…。試合前に1年(新2年)に教えてもらいました」と笑った。

 次打者席で待っていると2番的場が3ボールとなり、中村隆監督(33)から「バントするか?」と尋ねられた。原田は「打ちます!」と即答。四球後に迎えた一、二塁だった。“トリック”はない。普段からバントは自主練習のみの攻撃型チーム。指揮官は期待通りの一撃を「私の方が迷っていた。選手が頑張ってくれた」とたたえた。

 史上初となる1日2本のサヨナラ本塁打を演出し、準々決勝は東海大相模(神奈川)と戦う。殊勲のヒーローは「優勝を目指しているので、通過点の1つ」と、“テルマエ”ならぬ余韻に浸ることはせず、また「阿部寛」の世話になるつもりだ。【松本航】