部員間の暴力が発覚し、春の地区大会を辞退した酒田南(山形)のエース左腕・阿部雄大(3年)が鶴岡高専を相手に5回ノーヒットを達成し、初戦を突破した。昨秋の東北大会準々決勝以来、274日ぶりとなる公式戦登板に「緊張して硬くなっていた。ストライク先行を意識したが、できなかった」。それでも、打者17人から11三振を奪い、2四死球は与えたが二塁を踏ませなかった。打線も2本塁打を含む8安打10得点と火を噴き、わずか1時間17分でゲームセット。阿部は「初球から全力投球した。直球が走らない中でも、強気で投げられた」と実感を込め汗をぬぐった。

 部内の不祥事を受け、活動を自粛していた4、5月は全体練習ができず、自主練習に明け暮れた。逆境にも思えるが、阿部雄は言う「あの期間があったからこそ、勝ちたい思いが、さらに強くなった。今は甲子園しか見えていない。今年は絶対優勝する」。エースはたくましくなっていた。

 鈴木剛監督(37)は選手たちに「我慢強さと謙虚さが大切」と教え、春先は技術よりも人間性や高校球児としての立ち居振る舞いを、全員で考えてきた。この日はエースが無失点に抑え、序盤つながらなかった打線も4回に爆発。プレー全体の流れに「我慢強さが見えた」と評価。4月には経営母体が運営する天真学園と合併し、ユニホームもブルーの縦縞が復活した。身も心もリセットし、強い酒田南が帰ってきた。【神稔典】