昨年12月に元部員らの飲酒喫煙が発覚し、半年間の対外試合禁止処分を受けていた仙台育英が、初戦突破した。昨秋の東北大会2回戦以来278日ぶりとなった今年初の公式戦で、気仙沼向洋を8-1の7回コールドで圧倒。初回先頭、1番熊谷大貴外野手(3年)が右越え三塁打から相手悪送球に乗じて一気に生還。たった2球で先制し、バントをからめて14安打6盗塁で8点を奪った。1月から就任した須江航監督(35)が理想に掲げる「機動力野球」を存分に見せつけ、初采配で初勝利を挙げた。

 たった2球で“新生仙台育英”を強烈に印象付けた。初回先頭、熊谷は2球目の真ん中低め直球をライトへ引っ張ると、チーム一の50メートル5秒6の快足を一気に飛ばした。相手右翼手の二塁悪送球に乗じ、三塁で減速することなくトップスピードで本塁へ生還。3安打2四球で全5打席出塁の切り込み隊長は胸を張った。

 熊谷 三塁コーチが回していた。走塁には力を入れてきたし、チームに勢いを付けられてよかった。緊張よりは、自分たちのやってきたことに自信を持って発揮しようと思った。

 須江監督が理想に掲げる「機動力野球」を初戦から存分に表現した。緩慢な送球を見ると積極的に次の塁を狙った。この日6盗塁中、最多の3盗塁をマークした熊谷は「野球はランのスポーツ。走塁の意識が高くなった」と“須江効果”を強調した。攻撃では昨年まで少なかったバントやスクイズを多用。一方、投手は3人を送り込んで公式戦のマウンドを経験させ、7回で計12奪三振4安打1失点に抑えた。走攻守で収穫があった須江監督は「熊谷の1本で勇気が出た。気負わず、やるべきことができた。今日は100点だと思う」と手応えを口にした。

 対外試合禁止処分が明けた6月5日までは、ひたすら紅白戦を繰り返すしかなかった。その間、選手たちが気持ちを切らさずにいれたのは、支えてくれた人たちがいたからだった。チーム内で共有するグループLINEには、須江監督から毎日のように長文の激励文が届いていた。

 熊谷 深夜に須江先生から、野球についての熱いメッセージが毎日のように送られてきた。この夏は自分たちのために野球をやるんじゃない。支えてくれた先生や家族に恩返しするために、甲子園に行きたい。

 背負うものが違う。半年間の雌伏の時を経て、たくましさを増したライオン軍団が頂点に向け、1歩足を踏み出した。【高橋洋平】