ノーシードから勝ち上がった藤沢翔陵は、1986年以来の4強入りはならなかった。

 1点リードで迎えた1回に3失点を喫し、2死一、二塁のピンチで、小笠原智一投手(3年)が2番手でマウンドへ上がった。後続を断ち、その後も走者を背負いながら、粘りの投球を見せた。元ロッテの川俣浩明監督から、ベンチで「甲子園に連れていってくれよ」と声をかけられ、「よっしゃー!」と気合を入れていた。

 ピンチでも、表情は変わらなかった。淡々と投げ、打者を抑えると小さくガッツポーズを作った。兄である中日の小笠原慎之介投手(20)が先発する試合は、家で録画してチェックする。「兄のすごいところは、いつも落ち着いているところ。焦っている表情を出さない」。高校生活最後の夏、プロの世界で活躍する兄の姿から得たものを、しっかり体現した。4回1/3を被安打2、5奪三振の無失点でリズムを作ると、打線が同点に追いついた。

 3-3のまま延長戦に突入したが、12回にサヨナラ負け。試合終了の瞬間は、ボールボーイとして迎えた。鎌倉学園の校歌を聞きながら、涙があふれた。「ぼうぜんとしたけど、ベンチに戻って校歌を聞いて、負けたんだと思った」と振り返った。

 先に兄が野球を始めていたからこそ、この道に進んだ。最後の夏、背番号は「11」だった。「兄のおかげで、野球ができた。3年間、ありがとうって伝えたいです」。

 兄が東海大相模で頂点に立った甲子園にはたどり着けなかったが、悔しさという今後の糧を手にした。野球は続けていくつもりだ。「この悔しさをバネにします。いつか、兄と同じ舞台に立てるようになりたい」。涙をこらえ、力強く話した。