<高校野球北埼玉大会:花咲徳栄4-1上尾>◇24日◇決勝◇大宮公園野球場

 理科が難しかった。「20点くらい足りなかったはず」と上尾(北埼玉)の日野吉彬外野手(3年)は反省する。2年半前、志望校・上尾の入試に落ちた。「でも、ここで野球がしたい」。OBでもある父泰宏さん(53)から提案された「定時制」の選択肢に乗った。同校ではここ数十年いなかったという、定時制部員が誕生した。

 平日昼、無人のグラウンドに入る。「置きティー打撃」など1人用のメニューをこなす。午後4時から全体練習に参加し、5時過ぎには授業のため抜ける。夜の給食を挟み、授業は4時間。25歳の同級生や、50歳の下級生がいる。「社会人の方は礼儀正しく、嫌なことでも顔に出さない。勉強になります」。授業は夜9時に終わり、時には仲間の自主練習に合流した。自宅まで1時間以上かかるのに。

 たまに、ひとりぼっちの練習をこっそり眺める影があった。高野和樹監督(51)だ。「1人なのに、サボっている姿を見たことがない。あの子は、人間が強いんです」。日野は「自分でこの道を選んだから」と言い切る。皆、努力を知っている。上尾のベンチ入り20人は選手間の投票制。日野は満票で選ばれた。

 名門の3番打者を任され挑んだ甲子園は、決勝で花咲徳栄に敗れ、道を閉ざされた。でも後悔はない。「苦しくても、素晴らしい仲間がいたから。悔いよりも、達成感があります」。夏の日差しに照らされた白い歯が、まぶしかった。【金子真仁】