2018年夏、全国高校野球選手権大会(甲子園)が100回大会を迎えます。これまで数多くの名勝負が繰り広げられてきました。その夏の名勝負を当時の紙面とともに振り返ります。

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<第89回全国高校野球選手権:佐賀北5-4広陵>◇2007年8月21日◇決勝

 ミラクル快進撃で全国4081校の頂点に立った。佐賀北(佐賀)は0-4で迎えた8回、1点を返してなお1死満塁から3番副島浩史(3年)が左翼席へ3号逆転満塁アーチ。40年ぶり3度目の決勝で夏初Vを目指した広陵(広島)の悲願を打ち砕いた。決勝での満塁弾は佐賀勢初Vを飾った94年佐賀商の西原正勝以来2人目で逆転は初。佐賀北は開幕戦勝利、延長引き分け試合など7試合、大会史上最長の73イニングを戦い抜いた。公立校の優勝は96年松山商以来11年ぶり。特待生問題に揺れた高校球界に、さわやかな「がばい旋風」を巻き起こした。

 15日間をドラマチックに過ごした甲子園が、佐賀北のホームスタジアムになっていた。副島の打球を後押しするように、地鳴りのような歓声がわき起こる。副島が一塁手前で右手を突き上げると、5万人のスタンドも揺れ動いた。決勝初の逆転満塁弾。副島は「(佐賀)北高を応援してくれるみんなの思いが、ボールに乗った感じでした」と、大声援の力を口にした。

 追い詰められていた。2回途中から救援のエース久保が7回に今大会初の2失点。0-4と点差が広がり、副島も「正直厳しいと思った」。8回裏1死から久保がチーム2本目の安打を放ち、代打新川勝政(2年)が右前打で続く。連続四球で押し出しの1点が入る。副島に打順が回るとムードは最高潮。開幕戦で公式戦1号を放ち、準々決勝の帝京戦でもソロアーチをかけた3番打者を、大観衆は知っていた。その期待にビッグアーチで応えた。

 「フォアボールでもデッドボールでもエラーでも良いから、4番の市丸につなごうと思った。真ん中に入ってきたスライダーをコンパクトに振りました」。甲子園2発後、大振りが目立ち、ベンチで怒られ続けていた男は、広陵・野村に2打席連続空振り三振に倒れていたスライダーをあえて狙って奇跡を起こした。

 好守も奇跡を呼び込んだ。広陵打線に13安打を浴び、1回を除いて毎回走者を背負った。だが「守りからリズムをつくって甲子園で勝つチーム」という百崎監督の理想通りの展開だった。中堅の馬場崎俊也(3年)は、延長15回引き分け再試合となった2回戦で大飛球を捕った際に右太ももを痛め、準々決勝では左中間フェンス激突、右手首もねんざしたが、準決勝から痛み止めを飲んで出場。ナインの好守も快進撃を支えた。

 ベンチ入り18人はすべて軟式野球出身。特待制度とは無縁の公立普通校では84年取手二(茨城)以来の快挙。公立Vも80年以降わずか6校。昨夏は佐賀大会初戦敗退からの快進撃。副島は「チームが1つになったこと。プロに行くような選手はいないけど、全員が1つになって戦うのが高校野球だと思います」と答えた。これぞ高校野球。佐賀北の戦いに観衆は魅了された。開幕戦を引き当て、翌日帰省かと笑っていた“がばい普通の高校生”たちが、長い夏の終わりに笑った。

 

※記録と表記などは当時のもの