八戸学院光星(青森)が、部員の死去を乗り越えて明石商に競り勝った。2年ぶりの初戦突破。ピンチのたびに4万人以上の拍手が沸きたつ完全アウェーにも、中村は全く動じなかった。8回から3番手で登板し、3イニングを無安打無失点。当時1年生でスタンドから見ていた2年前の東邦(愛知)戦は大観衆のタオル回しにのみ込まれ、最大7点差を守りきれずに大逆転負け。この日も「甲子園に潜む魔物」が顔をのぞかせたが、完全に封じ込めて初戦突破をたぐり寄せた。

 「大観衆が逆に自分の力になった。怖いとは思わなかった。チーム全体で光星の野球をやって、吉川のために1勝をあげられてよかった。お前のためにも勝ったぞ、と」

 天国に旅立った友に白星を届けた。去年の秋に発症した脳腫瘍で闘病中だった投手の吉川智行さん(2年)が、試合の2日前に天国へ旅立っていた。選手には10日の練習前のミーティングで知らされた。中村は「かわいい後輩で、一緒にBチームで練習していた。少しは動揺したけど、あいつのためにも頑張ろうって思った」。今年の3月に吉川さんは入院先の関東の病院を抜けだし、埼玉の花咲徳栄グラウンドで行われた練習試合を車いすで見学したという。中村が「夏頑張るから、お前も頑張れよ」とかけた言葉が、結果的に最後となってしまった。

 悲しみを乗り越えて甲子園春夏通算20勝目を挙げた仲井宗基監督(48)は沈痛な表情を浮かべた。「夏の予選から『吉川を甲子園に連れて行こう』とやってきた。選手の頑張りは天国に届いたと思います。吉川のためにも1つになれた」。長南主将も「今日はどうしても勝たないといけなかった。本当は試合を見届けてほしかった」と声を絞り出した。

 2回戦でも関西勢の龍谷大平安と激突する。守護神・中村はチリチリの天然パーマで、チーム内では愛を込めて「チリ魔神」と呼ばれている。「よりタフな試合になる。今日以上に力を出したい」。第100回の夏は、亡き友のために戦う。【高橋洋平】