第91回選抜高校野球大会(3月23日開幕、甲子園)の組み合わせ抽選会が15日、大阪市内で行われる。

21世紀枠で石岡一(茨城)富岡西(徳島)熊本西(熊本)の3校が出場する。21世紀枠は、困難な練習環境の克服や地域貢献など、野球以外の要素を選考条件に加え、甲子園出場のチャンスを広げる目的で01年に開始。来春センバツで20年目を迎える。

01年の創設年には安積(福島)そして宜野座(沖縄)が選ばれ、宜野座は見事にベスト4に進出した。右腕・比嘉裕投手(当時3年)が投じた縦に鋭く落ちるカーブは後に「宜野座カーブ」と呼ばれ、話題になった。あれから18年、比嘉さんに会いに行った。

3月上旬の夕方。沖縄・名護市の海岸沿いのグラウンドに、野球帽の子どもたちが続々と集まる。自分たちで好きな音楽を流し、赤土のグラウンドで動く。叫ばれる「野球人口減少」がウソのような光景だ。また1台、車がやって来て少年が降りた。運転手も降りた。比嘉さんだった。

35歳になった比嘉さんは2児の父。7歳の長男・裕空(ゆうあ)くんが所属する少年野球チームで、コーチをしている。練習は週5回。仕事終わりにこうしてグラウンドに寄る。「チームの子どもは宜野座カーブのことを知っていますね。同じ世代だから、お父さんに聞いたんでしょう」と少しうれしそうだ。

当時のエースがケガをし、2年夏を前に投手転向となった。奥浜正監督(58=現本部高勤務)からさっそく、後に「宜野座カーブ」と呼ばれたカーブの習得を命じられた。投げ方を教わっての第1球は「何も曲がらず、遅い直球になりました」と笑う。

一般的なカーブは、親指と人さし指の間からボールを抜いて投げる。宜野座カーブは、縫い目にかけた人さし指を外に(右投手であれば左から右に)はじくことでボールに強烈な回転を加える。シュートを投げるように、カーブを投げる。「最初は全く分からなかったですね。回転がかかるまで2カ月かかりました」。宜野座カーブだけ1日200球以上を投げる練習もこなし、ようやく身に付いた。

強烈な回転量のカーブを武器に沖縄大会、九州大会を勝ち進み、センバツでも岐阜第一、桐光学園(神奈川)浪速(大阪)を撃破した。優勝候補の一角・桐光学園戦では7つの空振りを奪い、その全てが宜野座カーブによるもの。沖縄に戻ると、那覇空港では熱烈な歓迎にあった。

自身を郷土のヒーローに変身させた魔球を、今でもたまに遊びで投げる。「回転はかかるんですけど、すっぽ抜けやすいですね」と比嘉さん。「先輩とか草野球の仲間とか、多くの人に投げ方を聞かれました。でも投げられるようになった人はほとんどいません。マンツーマンで教えても、本当に難しいんです」。ちなみに、裕空くんにはまだ当時の映像すら見せていないという。

この先、宜野座カーブのような「新・変化球」を投げる甲子園球児は現れるのだろうか。「昔よりみんな体も大きいし、技術もしっかりしている。現れると思いますよ」。比嘉さんはきっぱりと予言し、指導を待ちわびる野球少年たちのもとへ戻った。【金子真仁】