高校野球には選手の数だけドラマがある。連載「令和のなつぞら」では、プレーだけではない、隠れたドラマにスポットを当てる。

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下諏訪向陽(長野)のエース高橋駿太投手(3年)には、ベンチからの光景がいつまでも深く心に残るだろう。

初回、2点リードが高橋からリズムを奪う。「心の余裕がなくなって…。テンポを変えたり、やれることはあったと思います」。松本県ケ丘に逆転され、なお2死満塁。藤村陽大外野手(3年)の鋭い打球は右翼線へ。「切れてくれ、ファウルになってくれと祈りました」。走者一掃の二塁打。1回持たず、7点を失った。

生気が消えた顔でベンチに戻り、仲間のねぎらいのタッチを力なくなで、ベンチ裏へ。「1人で考えていました。そしたら部長さんが2回、声をかけてくれました」。土橋部長の「お前がいなきゃだめなんだ」の言葉が胸に届いた。このままベンチ裏で、逆転を目指す仲間に背を向けたまま終わっていいのか。

「ベンチに出るのは気まずかったです。でも、ベンチでも切り替えられませんでした。声を出せませんでした」。試合中は無表情だったが、そこまで言うと、ほおから鼻にかけて真っ赤になり、涙になった。「2点先制してくれた味方に申し訳ない。リードして任せたかった山崎に、あんな展開で出させて申し訳なかった」。

自分の言葉で、その時の苦しさを伝えてくれた。声を出さなかったのではなかった。出せなかったんだ。敗戦を受け入れようとする高橋の姿も球児の夏のリアルなワンシーン。胸に響いた。【井上真】