星稜が「奥川劇場」で決勝にコマを進めた。鵬(おおとり)学園戦は大苦戦。7回から救援した今秋ドラフト1位候補の奥川恭伸投手(3年)が逆転を許したが、同点弾、延長10回の勝ち越し決勝弾と自らのバットで勝利をもぎ取った。

林和成監督(44)は「今日は奥川劇場でしたね。投げて、打って、よくやってくれた。流れは鵬学園だったけど、よく選手が最後まであきらめず頑張ってくれた」と、大粒の汗を流しながら振り返った。

先発の寺沢孝多投手(3年)が力投。4-1と星稜がリードしていた7回、寺沢は3連打で2点を返され1点差。無死二塁のピンチでエース奥川が登板した。2連続三振でリードを保ったかに思えたが9番の宮本康介外野手(3年)に左翼に2点三塁打を打たれ、4-5と逆転された。

完全な鵬学園ペース。次の攻撃の先頭で打席に入ったのは奥川だった。1ストライクからの2球目を一塁ファウルゾーンに凡飛を打ち上げた。しかし一塁手が落球。「ああいうミスのあとは長打が出ることが多い。何かあるかなと思った」と奥川。1ボールをはさんで、甘い変化球をすくい上げて左翼席に運び、再び振りだしに戻した。「絶対追いつきたかった。やってきたことを打席でしっかり出せた」と振り返った。

かつて甲子園で演じた名勝負をほうふつさせるシーンだった。79年夏の甲子園の箕島戦。延長16回、星稜の一塁手が取ればゲームセットだったファウルフライを落球し、直後に同点弾を浴び、18回サヨナラ負け。星稜の名前が全国に知れわたった一戦でもある。

林監督は「そこまで考えていなかった」と苦笑いしたが、奥川は流れをものにした。今大会で最速158キロの球場表示を出している右腕はエンジン全開。8回、9回を3人ずつで抑えて延長戦に持ち込んだ。

そして延長10回、1死二塁で決勝の2ラン本塁打。裏の反撃も1点に抑えて、勝利の喜びに浸った。

「試合内容はダメだった。僕も雰囲気にのまれてしまった。明日はもっといいゲームをしたい」。劇的な試合を制して、甲子園まであと1勝とした。

◆VTR 79年8月16日、夏の甲子園3回戦で星稜は箕島(和歌山)と対戦。1-1の延長12回表に星稜が敵失で1点を勝ち越すと、箕島はその裏に2死から1番嶋田宗が左翼へ同点本塁打を放った。16回表、星稜は山下の適時打で勝ち越し。その裏、箕島は2死走者なしで森川がファウルフライを打ち上げるも、一塁手が転倒して落球した。命拾いした森川は左翼へ本塁打を放ち、同点に追いついた。そして18回裏、箕島・上野が左前にサヨナラ安打。4-3で3時間50分の激闘に終止符を打った。箕島・石井は257球、星稜・堅田は208球で完投した。