第101回全校高校野球選手権(甲子園)で南北海道代表の北照が、中京学院大中京に3-4で敗れた。10年にはセンバツ8強の経験もある道内屈指の強豪校だが、夏は5度目の挑戦でも白星を手にすることができなかった。エースで4番の桃枝丈(3年)は、8回152球4失点完投。打っても2安打2打点と奮闘したが、あと1歩届かず、涙をのんだ。

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涙は胸の奥にぐっとしまい込んだ。整列の際、桃枝は、ベンチ前で泣きじゃくる女房役佐藤にそっと声をかけた。「ごめんな」。6回には先制打、逆転された直後の8回にも中越え適時二塁打を放った。だが、7回に失った4点が大きかった。「4番の役目を果たせたけど投球は3点以内に抑えたかった。やりきったというより、とにかく悔しい」。エース兼4番として、相手打線を抑えきれなかった責任を1人で背負い込んだ。

同校にとって5度目の夏聖地も、初勝利には届かなかった。今春、小樽地区予選で敗退し、上林弘樹監督(40)が「最弱」と言い続けたチームの挑戦。中心が桃枝だった。夏の地区予選前には、同監督から花壇の水やり係を任された。「花も育てられない人間は、自分も育てられないよ」。以降は毎日、練習の30分前にグラウンド入りし、雑草取りをして水をあげてきた。

試合前には必ず葉に触れ、「勝たせてくれ」とお願い。1人で845球を投げ、聖地への切符をたぐり寄せた。白星は得られなかったが、小4から野球漬けだった青年は、花に愛を注ぐことで気持ちを整え、大舞台での力に替えた。

スタンドには、父賢一さん(46)ら一家11人の姿があった。母ゆかりさんは前日10日が誕生日。LINE(ライン)で「明日頑張るよ、楽しむよ」と短い言葉に思いを込めた。新チームが始動した昨夏には、重圧から「もう行きたくない」と母につぶやき、無断で練習も欠席した。あれから1年。息子の全力プレーに母は「小学校から野球をやってきて、甲子園に連れてきてくれたことが、最高の誕生日プレゼント」と目を細めた。

9回には、2年生の山崎の一打で1点差まで詰め寄った。桃枝は「弱い僕らには夢の舞台だった。でも、ここまできたからには勝って喜びたかった。後輩たちには、またここに戻ってきて1勝してほしい」。ベストを尽くしても届かなかった1点は、後輩に託す。【永野高輔】