緊急事態宣言が5月末まで延長され、夏の大会開催への風向きは依然として厳しい。今春のセンバツで4季連続出場のはずだった明石商(兵庫)の狭間善徳監督(55)は「当然命が大事」と考えながらも、センバツ、春季大会と軒並み中止となった現状に部員の気持ちを思い、葛藤を抱いている。

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新緑の季節に変わっても球音は聞こえない。「厳しいなあ」。電話口でそうつぶやく狭間監督の声にいつもの快活さはない。高校総体が中止となり、高校野球も夏の大会開催が容易でないムードが漂う。明石商は4月8日から休校が始まり、今月31日までの延長が決定。もう1カ月以上、部員たちの顔を見ていない。

70人いる2、3年生部員は各自でトレーニングに励む。部員とコーチ間のLINEで10人程度のグループをつくり、日々取り組んだメニューや体重を報告し合う。今秋ドラフト候補の来田涼斗外野手(3年)は神戸市内の自宅周辺で、中森俊介投手(3年)も地元の兵庫・丹波篠山市内で友人数人と走り込みなどを行っているという。狭間監督はLINEを使わず、部員には無作為に電話をかけ、抜き打ちで状態を確認している。多くの部員が4月目標の「体重2キロ増」をクリアし、今後は維持とキレ作りに努める。実戦から遠ざかる時間が増える一方のため、狭間監督は「一瞬の判断をつけられるように」と瞬発力を磨くメニューの追加を計画中だ。

直接選手の顔を見て指導する日はいつ戻るのか。練習再開の見通しは不透明。「選手の気持ちが持つかどうか」。今、選手とつながる方法は電話1本だけ。「言葉が大事になってくる。技術を教えるのと同じで伝え方もそれぞれ。選手の性格は知ってるから、この子にはこういう風に伝えてやる気にさせようとか。難しいけど大事なところ」。どうしたら選手を支えられるか。今できる最善の指導と指示を考える。

春を逃した部員たちを思えば、胸中は複雑。「(活動自粛が)もう1回延びたら夏は厳しい。そのへんの怖さはある」。現実から目をそらすわけにはいかないが「目標と夢を持っている子たち。(夏季大会中止の)決定はしていない。前に進めていかないと」。希望は最後まで持つ。

「(練習が)始まったらノック打たないとあかんから」。初めて休むという5月の大型連休も、部員たちと同じように体を動かす。野球に打ち込む日常が戻ってくると、今は信じるしかない。【望月千草】