福島県の夏の代替大会「福島2020高校野球大会」は18日に開幕する。99年の就任以来、春4度、夏17度の甲子園出場を誇る聖光学院・斎藤智也監督(57)にとっても、大会中止は衝撃だった。

地元福島だけではなく、全国から甲子園を夢見て集まった111人の部員たちのショックも計り知れない。気持ちが痛いほどわかるからこそ名将は「同情したら選手は伸びなくなってしまう。そこで終わっちゃうから」とあえてきれい事は言わなかった。夏13連覇中の絶対王者は、23日の初戦で、昨夏決勝を戦った日大東北と対戦する。

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5月20日に日本高野連が発表する前、15日に一部メディアで夏の甲子園大会中止が報じられた。斎藤監督は「生徒がその記事に一喜一憂して泳がされるのが、すごい腹立たしかったので」と翌16日に3年生全員を集めた。「20日まで期待しても、待ってた分、失望感が大きくなるから、中止を前提にミーティングするよ」。目をつぶらせ、下を向かせた状態で「辞めたいやつは挙手」と告げた。誰の手も挙がらない。今度は全員に手を挙げさせた状態で、「もう1回聞く。辞めたいやつ手を下げろ」。手は動かなかった。「意志を確認して『最後まで全員でやるぞ』となった」。

しかし、見せかけの継続はしたくなかった。甲子園のない代替大会を、どういう位置づけにするかをテーマに、全員に発言させた。

「難局だからこそ、聖光野球を完成させて堂々と発表したい」「野球を通じて人間的に成長するという目的は達成できる」「情けなかった秋から、自分がどれだけ成長したのかを堂々と発表したい」「先輩たちが経験した夏の究極の緊張感とプレッシャーを味わなくちゃ、つまらない」。

前向きな意見ばかりだった。「死ぬまで忘れない日になると思った。こういうミーティングは最初で最後だから、自分で板書したのを写メで納めたよ」とスマホの画面を見つめた。

常日頃から、言い続けてきたことがある。「不都合は逃げずに受け止めなさい。試練や逆境はその人間を成長させるために必然的に起きる。試練を受け止める器があるか、ないかで人は差がつく」。ミーティングであらためて言葉をかけた。「コロナで中止は必然とは言えない。でも普段からなんて言ってきた? 逆境や不都合は自分に対するメッセージだから、聞き取らなきゃいけない。今回の不都合はあまりにも理不尽なので聞き取れないだろう。だからこそ自分でメッセージを発信して、自分で聞くしかないんだ」。気付くと3時間が経過していた。

勝負以上に大切にしてきたのが「人間」の部分だ。「目標は甲子園だけど、その前に目的として人間的に成長しないと、絶対に甲子園になんか行けない。人間的に成長したやつがチームの代表になって死ぬ気でプレーするから、周りも死ぬ気で応援する。野球は下手だけど、そういう取り組みと歩み、ひたむきさは、日本一でありたいと20年やってきた」。監督として最も大切にしてきた指針が、最も問われる年になった。

昨秋の県大会初戦敗退から、成長を証明する舞台となる。「今年の3年生は全国的にもすごい鍛えられている。自暴自棄になってもいいぐらいの衝撃だからね。それに耐えて、別の価値観を作りだそうとしている」。選手たちのたくましさと底力を信じ、大会に臨む。【野上伸悟】