“前田マジック”で決勝進出だ。全国高校野球選手権の代替となる都道府県の独自大会が6日、各地で行われ、東東京は帝京が東亜学園との準決勝で逆転勝ち。カウント途中で代打の代打を送り、同点スクイズを敢行させる前田三夫監督(71)の執念が実った。8日に昨夏優勝の関東第一と優勝をかけ激突する。新潟は中越が、奈良は天理が、和歌山は智弁和歌山が優勝した。

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球場に戸惑いの空気が流れた。2-3の8回1死満塁。代打の小山勝己内野手(3年)が2ボールから3球目をファウルすると、前田監督は代打の代打に菊池祐汰外野手(3年)を送った。なぜ、ここで? 答えはすぐ出た。4球目で三塁走者が走りだす。菊池が直球を投前に転がし同点。捕手の一塁送球がそれ、二塁走者もかえり逆転。適時打と犠飛も重ね、計4得点。甲子園通算51勝の名将が、鮮やかに勝利をつかんだ。

前田監督は8回の攻撃前「ここだぞ」とハッパを掛けた。「9回はプレッシャーで焦る」。勝負どころとみた。1死から中前打が出ると、次打者の初球でエンドラン。「動かさないと勝てない」。そうやって好機を広げ、小山のファウルで、また動いた。「第1ストライクで決められず、スクイズしかないと。ただ、小山はバントがうまい印象がない。菊池がいた」と小技の名手を指名。直後のサインは「もう1ストライク。投手有利」。特長を見抜き逆転を引き寄せた。信頼関係あってこそだ。菊池は「雰囲気的に(スクイズなら)自分かなと分かってました」と緊張なく転がした。

甲子園中止が決まった際、前田監督は人に勧められ、部員に動画でメッセージを送ろうとした。だが「一方通行になる」と翻意。1人ずつ電話し「きちっとした高校野球で締めよう」と伝えた。甲子園がなくても本気で優勝を狙う。昨夏王者の関東第一にも、全力で勝ちにいく。【古川真弥】