札幌第一が特別な夏の頂点に立った。9日、南北海道大会決勝で昨夏南大会準優勝の札幌国際情報を8-3で下し、夏は12年南大会以来の王者に輝いた。

新型コロナウイルスの影響で甲子園が中止。憧れの舞台がなくなり一時は方向性を見失ったが、独自大会に向けエース兼主将の山田翔太(3年)を中心に結束。負けることなく最後の夏を締めくくった。北北海道大会は10日に準決勝が行われる。

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思い描いていた最後の夏ではなかった。それでも誇っていい。南北海道で一番は札幌第一だと。最終回、最後の打者を相手にエース山田が3年間の思いを込めて右腕を振った。中堅のグラブに吸い込まれる打球。2戦連続完投で優勝を決めた。「最後は全員で笑って終わろう」。結実した思いは表情にはかすかにしか表れなかった。甲子園なき最後の夏。地面に置いてあったロジンバックを拾い、静かに笑ってマウンドに集まるナインの輪に加わった。

昨秋地区で敗れた相手との真っ向勝負。南大会全4戦連続で先発した山田は「球の走りは良くなかったけど、変化球を低めに集められた」。先行しながらも2、3回には1点ずつ返され、4回以降も5度得点圏に走者を背負ったが、今夏解禁したチェンジアップも交えて8回の1失点に食い止めた。9回に味方が失策しても「みんなを信じて投げられた」。顔色1つ変えずゼロで締めた。

「苦しい夏だった」。試合後、主将の山田が口にした言葉は3年生23人の率直な思いだった。コロナ禍で部活動が停止しても、ナインの姿は豊平川の河川敷にあった。少人数に分かれノックやロングティー。草むらに散らばったボールを1つ1つ拾った。先行きが見えない中でも夏がある、と信じ。5月20日、甲子園の中止が決定。唯一の心の支えがなくなり「迷っていた人もいた」(山田)。1週間は河川敷に足が向かない日々が続いたが、その間に独自大会開催の動きが進んだ。チーム全員に迷いはなかった。「やりきる、と」。

エースにも強い思いがあった。春夏計6度甲子園出場の強豪で1年春からベンチ入り。昨春センバツでは先発して1回もたずに7失点降板。帰宅後に父貴弘さん(47)が気晴らしに外食に誘ったが「ふさぎ込んでいた」。山田は言う。「あの時は自分1人になって周りが見えてなかった。今はみんなが支えてくれる」。

苦しんだ夏。その先にあったものとは。「最高の夏だった」。山田が振り返ったその言葉も、特別な夏の、紛れもない真実だった。【浅水友輝】