新型コロナウイルス感染拡大により中止となった今春センバツに出場予定だった32校を招いて行われる2020年甲子園高校野球交流試合第2日が行われ、鍛治舎巧監督(69)率いる県岐阜商が、明豊(大分)に2-4で惜敗した。7月中旬に教諭や生徒が新型コロナウイルスに感染し、岐阜県独自の代替大会出場を辞退。同校にとって今夏唯一の公式戦だった。主将の佐々木泰内野手(3年)が大会第1号本塁打を放つなど、敗れはしたが、聖地に足跡を残した。

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9回、最後の打席に立つ佐々木がベンチを見た。鍛治舎監督がスタンドを指さしていた。「ホームラン狙え」。高め直球を、迷わず振り抜いた。打球は小さな歓声とともに、左中間スタンドへ一直線。「小さい時から夢だった甲子園でホームランを打てて、気持ちよかったです」。自身通算41号本塁打は今大会第1号。記録に残る1本になった。

コロナ禍の中で、チームは懸命に前を向いた。感染拡大で3月から約3カ月間、部活動は休止。6月中旬に練習を再開したが、7月中旬に県岐阜商の教諭や生徒の感染が発覚。岐阜県の独自大会を辞退することを決めた。7月15日から2週間の自宅待機期間は、外で体を動かすことも禁止。佐々木は独自大会をテレビで見ていた。

「自分たちも出ているはずの大会でしたが、すぐに切り替えました。コロナにかかった方の気持ちを考えたら、つらいと思う。自分たちは大丈夫というのを伝えようと思って、甲子園に気持ちを向けました」。メンバー間ではLINEで、ネットで見つけた練習法を送り合った。鍛治舎監督には朝、昼、夜の食事メニューと就寝時間を毎日各自で送り、アドバイスを受けた。

ナインがやっと顔を合わせたのは7月30日。シート打撃を行うなど、実戦感覚を取り戻すことを第一に取り組んだ。練習試合はわずか3試合。2週間のブランクは大きかった。「3カ月半の休校開けの時はすごく手応えがありましたね。これはできるなと思ったんですが、7月30日の休校明けには『ちょっと、あれっ?』という状況でした」と監督は振り返る。打線はボールの見極めに苦しみ、守備では失策も続いた。

それでも、聖地に立てた喜びは変わらなかった。この日の朝、学校を出発する時に吹奏楽部が熱のこもった演奏で送り出してくれた。センバツから着るはずだった新ユニホームも甲子園で披露。「ここで1試合できたということは喜びです。まさかできるとは思っていなかった。選手は精いっぱいやってくれた」と鍛治舎監督。この夏、最初で最後でも、最高の試合が出来た。【磯綾乃】