1%の奇跡でセンバツ見えた! 府立の山田が秋季近畿地区大阪府予選の3位決定戦で、昨夏全国制覇した履正社を2-1の逆転で下す大金星を挙げた。1点を追う9回、1年生4番の横田那音(なおと)捕手が逆転の2点適時打。私学全盛の時代、大阪公立校の秋の近畿大会出場は94年の市岡以来、26年ぶりの快挙だ。練習環境に恵まれない中で工夫を重ね、これぞ高校野球を体現。17日開幕の近畿大会(わかさスタジアム京都)で夢の甲子園を目指す。

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1%の奇跡だ。9回裏2死、遊撃手が飛球をつかんだ瞬間、雄たけびがこだました。ベンチから飛び出した選手たちで、歓喜の輪があっという間にできた。昨夏全国Vの履正社に勝った。誰がこの展開を予想できたか。チームを率い5年目の金子恭平監督(41)も、「夢の中にいるような感じ。正直この現実についていけてません」と落ち着かない。「99%の人がうちが負けると思っている。これをひっくり返せる。こんな面白いことはないよ」。言い続けてきた言葉を選手が体現し、大阪公立校では26年ぶりの近畿大会を決めた。

我慢が勝利を呼んだ。6回に先制されたが「最速は130キロ出てるかどうか」という先発の坂田凜太郎投手(2年)が9回6安打1失点と粘投。縦のスライダーなど緩い変化球で翻弄(ほんろう)し、走者を背負ってもゴロを量産した。打線も1点を追う9回、相手の暴投などで1死二、三塁とし、1年生4番の横田が「今までで一番いい打球だった」と左越えに逆転の2点適時打。巡ってきたワンチャンスをモノにした。

みんな等身大の高校生たちだ。部員は茨木市など全員が地元出身。1日の練習時間は約2時間半。グラウンドは校庭にあり、7つの部活との併用で65メートル×90メートルほどしかない。内外野の連係プレー練習はできず、広く自由に使えるのは週1回1時間程度。近くに老人ホームがあるため、フリー打撃は校舎側に向きを変えて行うが、ネット越えをさせないよう竹バットを使う。金属バットで打つ練習は打撃ケージの“鳥かご”でしかできない。ブルペンも入れて3人ほどで手狭。紅白戦もしたことがない。練習試合は相手校のグラウンドへ向かうのがお決まりだ。

部員33人には、1人1人の役割がある。掃除係、草抜きがかりなど33通り。「自分で動ける人間になってほしい」との金子監督の思いからだ。創意工夫を重ねた結晶が、履正社からの大金星だった。試合が終わった正午すぎには、ツイッターで「山田高校」がトレンド入りするほど、世間を驚かせた。大阪私学全盛の時代にあって浪速、上宮、大産大付の甲子園出場校も破った新府立の星。横田は「つい最近まで関係なかった世界。甲子園行きたい」と目を輝かせる。近畿大会もミラクル進撃で、夢の聖地を目指す。【望月千草】

<山田の今大会の勝ち上がり>

2回戦 ○7-5桃山学院

3回戦 不戦勝 清教学園

4回戦 ○4-2浪速

5回戦 ○7-4上宮

準々決勝 5-4大産大付

準決勝 ●1-11東海大大阪仰星

3位決定戦 ○2-1履正社

◆山田 1984年(昭59)創立の府立校。野球部も同年に創部で、部員は33人。過去の最高成績は春季大会4強。主なOBにお笑いコンビ、フットボールアワーの後藤輝基、プロバスケットボールの今野翔太ら。所在地は大阪府吹田市山田東3の28の1。

◆大阪の公立高校野球部 山田の前に公立校として秋季近畿大会に94年に出場した市岡は1915年(大4)の第1回(当時は市岡中)から夏の全国高校野球選手権の予選に欠かさず出場している伝統校。翌年の1916年には全国準優勝をするなど、これまで夏10回、春11回の甲子園出場があるが、95年春が最後。夏は元近鉄中村紀洋が2年生だった90年の渋谷が公立では最後。その前は82年の春日丘。大阪府内トップクラスの進学校・北野は夏1回、春4回甲子園に出場。49年春には大阪公立校として唯一の全国制覇をしている。八尾も夏4回、春6回と甲子園に出場。52年夏には準優勝を飾っている。阪神矢野監督の母校桜宮は82年春に甲子園出場。戦前から戦後10年ほどは公立も強かったが、その後は浪商(現大体大浪商)、北陽(現関大北陽)、PL学園、興国、明星など私学の強豪が続々と登場。近大付、上宮、大阪桐蔭、履正社と私学勢力が続いている。