4月から母校・青藍泰斗の野球部監督に就任した元阪神投手の石川俊介新監督(35)が、同じく元阪神投手で2017年4月から指導に当たる麦倉洋一監督(49)率いる佐野日大と対戦した。青藍泰斗は4番宗祐矢外野手(3年)の同点2ランで反撃したが、着実に加点する佐野日大に圧倒されコールド負けを喫した。

試合が終わり、球場の入り口近くにいた麦倉監督は自然な流れで石川監督に声をかけた。元阪神投手で、プロでの実働年数は麦倉監督が1年で、石川監督は3年。それぞれ2勝でプロ生活を終え、同じ故郷の栃木・佐野市で高校野球の監督についた。麦倉監督は気さくに声をかけ、ほんの2分ほど2人だけで短く言葉をかわし、すぐに分かれた。

麦倉監督は「彼が現役の時は、私はデサントの阪神担当としてあいさつしたくらいですね。同じ栃木出身ですが、今回彼が青藍泰斗の監督を務めることになって初めて、そういえばと気が付いたくらいです」と、石川監督との間柄を説明した。石川監督も元プロ野球選手らしく取材の受け答えはスムーズだった。元阪神OB同士の対決と聞かれても笑いながら「麦倉さんには会釈しただけですよ。意識はしてません」と、短くスマートに答えた。

石川監督は4月に監督に就任したばかり。練習試合を10試合ほどで初の公式戦に臨み、準々決勝でコールド負けで終わった。「去年から選手を見てきたわけじゃないです。だから、まだ選手のことで分からないこともあります。こうして結果を出せず、選手には申し訳ないという気持ちです。やっぱり高校野球の監督は難しいですね。選手を信じてやること、それは簡単じゃないですね。一発勝負ですし」。

試合は点の取り合いで始まった。佐野日大は初回、青藍泰斗の先発伊藤祐太投手(3年)の立ち上がりを攻め、大関日和外野手(3年)の中越え先制適時三塁打など3安打を集めて、2点を先制した。青藍泰斗はその裏、佐野日大の先発左腕・早乙女左恭投手(3年)から4番宗祐矢外野手(3年)が2死二塁から右翼へ同点2ランを放ち追いついた。しかし、その後は佐野日大が着実に加点。丸山詩温外野手(2年)のソロ、川崎大也外野手(3年)の3ランも出て、13点を奪う一方的な展開となった。

石川監督は「いいバッターがたくさんいますね」と、佐野日大の打線をほめた。そして「夏に向けては、やっぱりピッチャーですね。競わせたいです。今日の試合で自分たちに何が足りないか分かったと思います。佐野日大さんに感謝して、夏に向けて練習します。やることはいっぱいありますね」と続けた。

大勝した麦倉監督は、高校野球では4年の指導歴がある。だから、石川監督の現状を思いやる言葉が出てくる。「4月に監督になったばかりですよね。大変ですよ、最初のうちは。阪神のOBが同じ佐野に監督になってくるとはね。OBの人には、もう来ないでほしいですね」と言って笑った。栃木には作新学院など全国レベルの強豪校もあり、そこに元プロ野球選手が監督としてやってくればレベルが上がる。自身してもそれはプレッシャーにもなるが、こうも言った。「仲間とこうして野球ができるのはうれしいですよね。こうやって小学生や中学生、高校生がプロを目標にしてくれれば、野球界も盛り上がります。私たちはまず、甲子園です。でも、その先に野球を普及するという大事な目標もあるわけですから」。

麦倉監督は89年のドラフト3位で阪神に入団し、94年6月に現役を引退。07年にプロ入りした石川監督と選手時代の接点はない。それぞれの現役時代の成績を見ると、先述したようにお互いの通算勝利数は2。麦倉監督が2勝4敗、石川監督が2勝1敗。通算投球回は麦倉監督が39回1/3に対し石川監督も39回2/3。そして初勝利がいずれも甲子園球場での横浜戦(麦倉監督は91年5月6日の大洋戦、石川監督は08年9月22日の横浜戦)と、ちょっとずつ共通点も見えてくる。

そんな2人が、今度は高校野球で甲子園出場を目指し、同じ佐野でしのぎを削る。麦倉監督は元阪神OBの後輩を「仲間」と表現したが、いずれは夏の予選や秋の県大会で甲子園出場をかけた勝負を繰り広げることになる。春の大会は夏の予選のシード権はかかっているが、直接的には甲子園出場とは関係はない。静かな雰囲気で、元阪神OB2人は再会し、口数少なくあいさつをして別れた。甲子園出場をかけ、熱くぶつかる日もそう遠くないように感じる。