慶応が桐蔭学園とのノーシード対決に競り勝ち、初戦を突破した。プロ野球広島で通算2119安打を記録した前田智徳氏(50)の次男でエースの晃宏投手(3年)が好救援を見せ、打線も犠打でつなげた終盤の好機から得点をもぎ取った。チーム一丸の「つなぐ野球」で難敵を振り切った。

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「こういうゲームをやろうよとずっと言ってきた。やっとチームになった」。森林貴彦監督(48)の目は涙にぬれていた。「故障者が多くて、前田も投げられるかどうかも分からない中で…。泥臭く点を取ってくれた。人任せ、自分よがりで、慶応の伝統をぶち壊してきた。そう言ってきましたが、つなぐような試合をしてくれました」と何度も目元を拭った。

目指してきた「つなぎの野球」が実を結んだ。1点を先制した直後の5回。先発荒井が逆転を許すと、2番手でエース前田がマウンドに上がった。四球で2死満塁としたが、次打者を空振り三振。父智徳氏が右翼スタンド最上段から見守る前で、傾きかけた流れを引き留めた。

打線もつないで、勝負どころをものにした。二宮のソロ本塁打で同点に追い付いた7回。なお無死一、二塁で投手から左翼に回った荒井が犠打を決めた。押せ押せムードに乗って、1番真田が勝ち越しの2点適時二塁打。8回も坪田の犠打で好機をつくり、貴重な追加点を挙げた。

チーム一丸でもぎ取った白星。その土台には、選手たちの日々の意見交換があった。今春の県大会敗退後、ベンチ外のメンバーから「自信持ってないやつが多い」とげきが飛んだ。課題があればレギュラー、控えに関係なく、指摘し合えるチームになった証しだった。金岡優仁主将(3年)は「全員が力を合わせないと桐蔭には勝てない。1人1人がつなぐ野球ができました」と胸を張った。

森林監督は「久々に泣かされましたね」と言った。ノーシードから18年以来の夏の甲子園を目指す今夏。もう、「伝統をぶち壊してきた」と言われた姿はない。慶応の快進撃が始まる。【勝部晃多】