遠ざかっていた夢舞台の切符をつかんだ。日大東北が光南との06年以来となる同一カード決勝を5-4の劇的な幕切れで、18年ぶりに夏の福島頂点に立った。4-4の同点で迎えた9回2死二塁から、公式戦初の「1番」に座った大塚健太外野手(3年)が値千金のサヨナラ打を放ち、激戦に終止符を打った。今夏限りで勇退を決めた宗像忠典監督(59)の花道を飾るためにも、ナインは満を持して、全国高校野球選手権大会(8月9日開幕、甲子園)に乗り込む。

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18年間閉ざされてきた聖地への扉をこじ開けた。4-4の9回2死二塁。右打席に大塚が入った。「ここで打たないと負ける。自分で決めるつもりだった」。カウント2-0。真ん中高めのスライダーを振り抜いた。打球は高く舞い上がり、風にも乗って、中堅手の頭上を越えた。甲子園切符が懸かった大一番は、劇的なサヨナラ決着。ナインは一斉にベンチを飛び出し、ホームベース上で歓喜の輪をつくった。

大塚 みんなが自分を信じてくれていた。最後は、気持ちでいってやろうと。うれしいの言葉以外にありません。

投げては背番号1を身にまとった吉田達也投手(3年)が、一世一代の粘投を演じた。9回を投げ7安打4失点(自責3)。123球の力投だった。初回に2点を先制され、2回にも1点を許す立ち上がりとなるも、気持ちは切れなかった。「仲間が逆転してくれると信じて、どんどん投げていった」。4-3の9回には同点弾を浴びたが、3回以降は8回までノーヒットに光南打線を抑え、チームに勢いを与え続けた。「気持ちを切らさずに『勝ち切るぞ』の思いで投げた」。マウンド上には、エースの姿があった。

7度目の優勝を飾った03年以降、夏決勝には6回駒を進めたが、06年に光南に2-4で敗れ、07年以降は聖光学院に5戦全敗。うち4試合は1点差。1試合は2点差とあと1歩のところで苦渋を味わった。悔し涙を流した歴代OBもスタンドに駆けつけ、先輩の思いも背に現役生が雪辱を果たした。大塚は「声援も力に変えて、精いっぱい出し切ることができた」と、やり切った表情を浮かべた。

負けられない理由がチームを1つに結束させた。福島大会の抽選会があった6月、宗像監督の今夏限りでの勇退が指揮官の言葉から選手に伝えられた。ナインに芽生えたのは「甲子園に連れていこう」というシンプルな思いだった。第1シード東日本国際大昌平との準々決勝、第4シード福島商との準決勝はともに逆転勝ち。決勝も終盤にかけて劣勢をはね返した。宗像監督は「1戦1戦強くなってくれた。逆転できないチームだったけど、弱気が見られなくなり、最後は良いチームになってくれた」と諦めずに戦い抜いた姿勢が実を結び、目を細めた。

甲子園で花道を飾るために、満を持して聖地に乗り込む。大塚は言い切った。「ずっと怒られてばかりの世代が、最後に結果を出すことができた。(宗像)監督のおかげです。お世話になった分、甲子園で恩返しがしたい」。指揮官と臨む最後の夏は、まだまだこれからだ。【佐藤究】