2年ぶりに開催された夏の甲子園の決勝は「智弁対決」になった。智弁和歌山は近江(滋賀)の好右腕、山田陽翔外野手(2年)から4点を奪って攻略。02年以来、19年ぶりの決勝で3度目の全国制覇を狙う。智弁学園(奈良)は先発小畠一心投手(3年)が9回1失点完投&決勝3ランの大活躍で京都国際を下し、同校初の夏決勝に導いた。兄弟校が夏の甲子園決勝で戦うのは103回目で初めて。「朱赤」のユニホームが激似のそっくりさん対決は午後2時プレーボールだ。

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瞬く間に主導権を握った。プレーボール直後、智弁和歌山のバットが立て続けに快音を奏でた。先頭宮坂がシュアな打撃で右中間二塁打。1死後、角井が腕を畳んで内角速球をとらえ、右翼線に適時二塁打を放った。岡西は浮いたフォークを軽打して、中前適時打。幸先よく2点を先制した。

大阪桐蔭や盛岡大付の強力打線をなぎ倒した快腕山田に動じない。岡西は「小園投手とちょっと似てる。速い球を待ちながら変化球に対応した」と明かした。今秋ドラフト上位候補で県決勝で撃破した市和歌山・小園健太投手(3年)に見立てたという。1点リードの6回、高めの速球を左翼線に運ぶ2点適時二塁打を放った大仲も言う。「小園投手に対するのと同じ考え方。小さい変化球が多いので(打席の)前に立って、浮いた変化球を一発で仕留めようと」。低めの変化球に手を出さない方針を徹底し、鮮やかに攻略した。

屈辱を力に変えた。最速152キロ右腕の小園を擁する市和歌山に昨秋から2連敗。中谷仁監督(42)も「センバツを逃して夏1本になって、あの投手を崩せるのか、というところから入った。『夏は行ける』感覚にならなくて。小園君と(強打の)松川君がいたからここまで来た」と明かす。春から160キロの打撃マシンを打ち、映像も見た。強敵の存在が準決勝突破のヒントになった。

3試合連続2桁安打で、中西が完投し、投手陣も充実する。19年ぶりの夏決勝は智弁学園との兄弟校対決。「勝ちと負けで天国と地獄の差がある」と指揮官。夏2度優勝の名門が威信をかけて戦う。【酒井俊作】

▽智弁和歌山・宮坂(決勝に向けて)「チーム全員で、全員野球で、挑戦者の気持ちを忘れず、ぶつかっていきたいです」

▽近江・多賀監督 5回の満塁のピンチを抑えたことが、今年のチームを凝縮したシーンだった。意地は見せられた。3年生の頑張りは素晴らしかった。選手たちに感謝でいっぱいです。

▽近江・春山主将 春の時点では、こんなところまで来られるとは思っていなかった。僕を信じてついてきてくれた仲間に、本当にありがとうと伝えたいです。

▽近江・島滝 (昨年の3年生は)独自大会で優勝したけど、甲子園に行けない悔しい思いをされた。こういう形で結果を残すことができて、感謝したいです。

▽近江・新野(この日は無安打も甲子園で2発) 楽しかったです。(主将の)春山を日本一の男にするとやってきて、甲子園でも4試合勝つことができました。夢の舞台で試合ができて楽しかったのひと言です。

◆中谷仁(なかたに・じん)1979年(昭54)5月5日、和歌山県生まれ。智弁和歌山では2年次の96年センバツで準優勝。97年は主将を務め、同校初の夏の甲子園優勝。同年ドラフト1位で阪神に入団し、楽天、巨人でもプレー。現役時代は捕手で通算111試合に出場。打率1割6分2厘、4本塁打、17打点。17年春に智弁和歌山のコーチになり、18年8月に監督に就任し、翌19年にセンバツ8強、夏は16強に導いた。甲子園通算成績は8勝2敗(不戦勝を含む)。

◆元プロ監督が決勝 智弁和歌山・中谷監督は同校で97年夏の甲子園優勝後、捕手として同年ドラフト1位で阪神入団。楽天、巨人でもプレーした。元プロ監督の決勝進出は08年夏の常葉学園菊川・佐野心監督(元中日)以来。優勝すれば86年春の池田・蔦文也監督(元東急)以来となる。また、選手と監督の両方で優勝を経験すれば、最近では08年春の比嘉公也監督(沖縄尚学)以来になる。

◆智弁学園 1965年(昭40)創立。生徒数は431人(うち女子は181人)。野球部も同年創部で部員は55人。甲子園は夏は20度目、春は14度出場で優勝1回。主なOBは高代延博(元日本ハムほか)、岡崎太一(阪神スカウト)、広岡大志(巨人)、岡本和真(巨人)、村上頌樹(阪神)ら。所在地は奈良県五條市野原中4の1の51。手塚彰校長。

◆奈良対和歌山 02年夏の「智弁対決」を含め甲子園での対戦は春夏通算で過去2度しかなく、奈良の2連敗となっている。

◆系列校同士の対戦 最近では今年センバツ1回戦の東海大相模3-1東海大甲府以来。夏の決勝では初めて。春の決勝では72年に日大桜丘、日大三の東京勢決戦があり、日大桜丘の「ジャンボ」こと身長190センチの仲根が、前年優勝の日大三を散発2安打に抑え5-0で完封勝ちした。智弁和歌山と智弁学園は甲子園で02年夏3回戦で1度対戦し、智弁和歌山が7-3で勝っている。

◆近畿勢同士の決勝 97年の智弁和歌山6-3平安以来24年ぶり。