東北勢悲願の大旗白河越えへ-。仙台育英(宮城)の挑戦が始まる。「目指せ、日本一! 獅子の投手陣」と題し、仙台育英が誇る投手10人(1年生を除く)を紹介する第2回は3年生6人です。最速145キロ左腕の古川翼は、1年秋からベンチ入り。昨春8強のセンバツでは背番号11をつけるなど、経験値が高い東北屈指の左腕だ。入学時から技術、精神面もさらに成長。3年最後のシーズンを結果で証明する。

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古川が自らが秘める可能性に期待を膨らませ、高校野球ラストシーズンに向かう。「ここまで積み上げてきたものが、最後に自分がどれだけ伸びるのかすごく楽しみ。高校に入学してから状態は一番良いと思う」と手応えを口にした。

苦節の1年を成長の糧とした。入学当初から最速140キロをマーク。1年秋からベンチ入りし、昨春8強のセンバツは背番号「11」。順風満帆なスタートかと思われたが、大きな高い壁にぶつかった。「センバツの終わり頃から、納得のいく投球ができず、どういう投球をすればいいのか。自分は投手として何を求めているのか。目指す場所が決まらず、気持ち的にはずっとしんどかった」。調子が思うように上がらず、自問自答するも答えは見つからず、気持ちの迷いから結果も出ない。新チームのメンバー入りはしたが、登板機会はほとんどなかった。「何が悪いのかも分からず(2年生の)1年間は低迷していた」

出口の見えない状況で、もがき苦しみ1つの答えにたどり着いた。無欲に“チームファースト”の精神を貫くこと。「3年生最後の年なので、チームの勝ちに貢献したいと思い、考え続けた結果、目指すべき投手像が見えてきた」。まず、球速へのこだわりを一切捨てた。内外角に的確に投げ分ける「本物の制球力」を求めた。元中日吉見一起氏のYouTubeを参考に、制球力向上の練習を実践するなど理想の投手像に近づきつつある。「球速を上げることだけに目が向いていたけど、今の球速でどれだけコントロール良く投げられるのか。制球が安定することで、力を入れて投げることもできる。手応えしかないです」と自信をみなぎらせた。

泣いても笑っても、高校野球はあと数カ月。未来を見据え、マウンドに上がる。古川は希望に満ちた表情で言う。「勝っても負けても、夏で高校野球は終わりですけど、自分の野球人生はその先もある。1つの集大成でもあり、通過点でもある」。

1度もつけたことがない仙台育英の背番号「1」への強い思いは封印した。「1年生の頃から(背番号)1番をつけたいと思っていたけど、こだわりはない。マウンドに上がれるのは1人。誰よりも良い投手だと言われて、チームを勝利に導きたい」と語気を強めた。心身ともに成長した証しを、確かな結果で示す。【佐藤究】

<斎藤蓉 流れ呼び込むのがエース>

エースナンバーは俺だ! 最速144キロ左腕・斎藤蓉(3年)は、静かに闘志を燃やしている。「(背番号1のこだわりは)ないと言えば、うそになる。1番をつけたい」と率直な思いを明かした。

昨秋の東北大会で初の背番号「1」を背負うも、結果を残すことはできなかった。今春センバツ出場の花巻東(岩手)との準々決勝に先発し6回途中を8安打9四死球6失点(自責4)。完全な自滅だった。「ストライクゾーンで勝負することができなかった。三振を取りにいきすぎて、ボールが先行してしまった」と悔しさと課題が残った。今冬は投球動作を見直した。右足を上げた際の体の軸を意識し、ネットスローを繰り返した。食事トレーニングやスクワットなどで体重増にも着手し、球速は昨秋から4キロアップ。入学当初から19キロも上がるなど成長度合いはチーム一。「体が突っ込んでボールが抜けていた。真っすぐ立つことを意識して、少しずつ安定していると思います」と一冬の成果を挙げた。

理想のエース像を描く。「チームを勝利に導く投手になりたい。苦しい状況でも、自分の投球で(試合の)流れを呼び込むのがエースだと思う」。蓉の名前の由来は「広い心を持った人になってほしい」というハスの花言葉から。ピンチの場面にも動じず、チームの勝利のために斎藤蓉がマウンドで「大輪の花」を咲かせる。【佐藤究】

<小林寛大 打たせて取る投球を>

最速141キロ左腕・小林寛大は、ここから万全の状態に仕上げていく。「あまり結果を出せていない。自分の持ち味でもある制球を生かせず、四球を出してしまっている」と現状を明かした。練習で動画撮影した投球フォームを見直すなど試行錯誤を重ね、下半身の強化にも積極的に取り組んでいる。「打たせて取る投球を取り戻し、背番号1を奪取したい」と、決意を新たにした。

<福田虎太郎 恩返しの気持ち大事に>

青森出身の福田虎太郎は、感謝の気持ちを胸にマウンドに立つ。「親には負担をかけてしまっているので、まずは恩返しの気持ちを一番大事にしたい」。最速141キロの直球を軸にした強気な投球が持ち味だ。メンバー入りを懸けた争いは熾烈(しれつ)を極めるが、誰にもチャンスはある。「チーム内競争で勝ち、背番号を勝ち取って、夏は日本一を目指したい」と力を込めた。

<渋谷翔 チームの力になれるよう>

渋谷翔が活路を見いだす。今年2月、サイドスローに転向。上手投げに限界を感じ、覚悟を決めて大きな決断を下した。「上から投げていて思うように結果が出ず、自分の生きる道を考えた時に、サイドに可能性を感じた」と話した。練習試合では少しずつ手応えをつかみつつある。「感覚はつかんできている。夏の日本一を目指し、チームの力になれるようにやっていきたい」。

<鈴木晶太 テンポ良く3者凡退で>

最速143キロ右腕・鈴木晶太は、公式戦デビューを目指す。「公式戦で投げたい気持ち」。昨秋の東北大会は背番号18で初のベンチ入りも登板はなし。183センチの長身から投げ下ろす直球は球速以上のキレがある。「試合を崩さない投手。チームに流れを呼び込むためには、テンポ良く3者凡退で抑えることが、大事だと思っている。しっかり夏に向けてアピールしていきたい」と意気込んだ。