24人の「両手」には確かな自信が残っている。打倒・大阪桐蔭の1番手に挙がる履正社に、進撃の予感漂うミラクルが起きていた。

5月の春季大阪府大会決勝。大阪桐蔭に2-3で敗れた翌日、学校からグラウンドにバスで向かっていると、自動車専用道の新御堂筋で大渋滞にはまった。小西柚生(ゆき)主将(3年)の電話が鳴った。バイクで先を走っていた多田晃監督(44)からだった。「3年生みんな降りて、ミキサー車を押してくれんか?」。

ミキサー車が運悪く、片側1車線通行のゾーンで故障して止まっていた。監督らが安全を確認した上で、3年生24人は制服のまま約800メートルを全力疾走。運転手がアクセルを踏むと同時に力を合わせて押した。

「めちゃくちゃ重かった。最初は全然動かなかった」(小西)。何度も押すこと20分。20メートルほど動かし、複数車線に戻るところまで進むと、ようやく渋滞が解消された。履正社の野球部員と気づいた周囲の車から「ありがとう」「昨日は残念だったね」と激励の声までもらった。

再スタート初日のハプニングはナインの背中を押した。多田監督は「大阪桐蔭に比べたら楽なもんです。あれで一致団結した。この『勢い』を夏につなげようという雰囲気になった。大阪桐蔭には負けたけど、ミキサー車には勝ったぞと」と笑った。抽選で2回戦からの登場となり、7月18日に阿武野-西野田工科の勝者と対戦することが決まった。大阪桐蔭に秋は2点差、春は1点差負け。最後の夏は押しまくって、19年以来の頂点まで突き進む。【柏原誠】