兵庫の高校野球史に新たな1ページだ! 阪神近本光司外野手(27)の母校で県立の社(やしろ)が、創部74年目で初めて夏の甲子園出場を決めた。2年連続制覇を狙った神戸国際大付との決勝は、3時間29分の大熱戦。タイブレークの延長13回に1点ずつ取り合い、14回に3安打を集中して3点を奪って勝負を決めた。

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この瞬間のために野球をやってきた。近畿決勝では、導入2年目で初のタイブレークとなった3時間29分の大激闘。延長14回の勝ちどきに、社ナインはマウンドになだれ込んだ。無数の人さし指を頂点に突き上げた。13回に1点ずつ取り合い、14回に3安打で3点を勝ち越した。04年センバツ以来、夏は創部74年目で初の甲子園。山本巧監督(50)も「どのように思っていいか整理できない。勝たせていただいてホッとしています」と声を震わせた。

底力発揮は12回の守備だ。2-2同点の2死一、三塁。左打者が引っ張ったゴロが、一塁の勝股優太内野手(3年)のミットをはじいてファウルゾーンに転がった。サヨナラ負け…。夢はついえたかに思われた。

だが、誰もあきらめていなかった。投手の芝本琳平(3年)が怒濤(どとう)の一塁カバー。勝股のトスを受け、ヘッドスライディングより一瞬早く、ベースを踏んだ。勝股が「はじいたけど球は近くにあった。冷静でした」と振り返れば、芝本も「練習であの方向に飛んだら、ベースカバーに行くと徹底していた。勝手に体が動いた」と胸を張った。会心の連係プレーさく裂で崖っぷちを乗り越え、156チームが参加した戦国兵庫の頂点に立った。

入寮生と自宅から通う生徒が入り交じる県立校の創意工夫が実を結んだ。指揮官は「局面での選択力、決断力が高いチームになってくれた」と評する。投内連係、タイブレークのディフェンス…。徹底的な反復練習で決断力を養った。勝股は守備に難があり、1年時は打撃そっちのけで守備に明け暮れた。鍛錬が土壇場、最高の結果で報われた。

山本監督は「体が無意識に反応するまでやってきた」とナインの頑張りをたたえた。昨夏甲子園8強の私学を撃破し、芝本は言った。「全員で束になって戦う」。チームのスローガンは『全束力』。一丸の社が歴史を動かした。【酒井俊作】

◆社 1913年(大2)に小野実科高等女学校として創立の県立校。1948年(昭23)から現校名。生活科学科、体育科、普通科で生徒数は701人(女子378人)。野球部は1949年(昭24)創部で部員数65人。甲子園出場は春1度で夏は初出場。OBに阪神近本光司、楽天辰己涼介ら。加東市木梨1356の1。若浦直樹校長。