天理が甲子園の夏50勝、春夏通算80勝に1歩及ばなかった。

あと数十センチ飛んでいれば…。3番戸井零士主将(3年)に“抜ければ同点”の一撃が2度あった。2点を追う2回裏2死一、二塁。135キロの直球を完璧にとらえた当たりが、背走する中堅手にもぎ取られた。同じく2点を追う8回裏2死満塁。外角スライダーに食らいついた当たりが、背走した二塁手に飛びつかれた。「いくらいい当たりでもアウトになれば、相手が上だったということです」。試合直後の悔し涙を拭い去るように、しっかり冷静に受け止めた。

中村良二監督(54)は言う。「3年を中心に十分にやりきってくれた。負ける時はこういうもの。海星さんが一枚上でした」。全国有数の伝統校の選手、監督だ。悔しさはある。ただ、勝利至上主義ではない、誇りもある。

指揮官は、惜敗に足りなかったものを問われて、困ったように笑った。「ボクが命令すれば、選手は従ってくれたでしょう。でも、自分が打席に立って感じたものを大事にしてほしい。だから、いつも任せます。甘いと言われるかもしれないけど、選手に考えてほしい、指示したくないんですよね」-。

自立したナインだからこそ、残せた思い出がある。この日、天理の三塁側アルプスに生駒ナインの姿があった。コロナ禍で決勝をベストメンバーで戦えず、自分たちに大敗したのに、横断幕を贈ってくれた。そんな“野球仲間”と2学期に練習試合で“再戦”する。中村監督が「相手に気配りができるようになってくれた」とほめる戸井主将は「応援に来てくれると聞いて“絶対に勝とう”とみんなで話しました。勝てなかったけど、自分たちの全力は伝わったと思います」。野球と同じくらい大事なものを手にし、天理の夏が幕を閉じた。