秋春夏3連覇を目指す大阪桐蔭が歴史的大勝で夏40勝だ。聖望学園(埼玉)との2回戦で、ともに同校の夏の甲子園最多となる25安打19得点を刻んだ。1回から打線は全開。2点先制の裏側には控え選手も参戦する、洗練された情報の伝達システムがあった。プロ注目の松尾汐恩捕手(3年)は2打席連続本塁打。前田悠伍投手(2年)も5回1安打無失点。昨秋明治神宮大会、3月のセンバツ優勝校が本気モードに入ってきた。

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大阪桐蔭がプレーボール直後、瞬く間に聖望学園のエース岡部を丸裸にした。先頭伊藤が四球出塁。2死後、丸山がスライダーをとらえて右越えに先制適時三塁打を放った。海老根も続く。左前に運んで、いきなり2点の先制パンチだ。

一気に流れに乗った。7回を除く毎回得点で同校最多の19点を挙げた。西谷浩一監督(52)は「データ通り、しっかり準備できていた」と評した。先制打の丸山は「初球に甘い球が来たら打とうと。浮いたスライダーが来ました」と納得した。

強さの秘密は控え選手がフル稼働する「伝達力」にある。1回、伊藤が出塁するとレガーズを外して一塁コーチに渡し、言葉を交わす。一塁コーチはすぐにレガーズを取りに来た小林に伝達。小林はベンチに戻らず、次打者席にいる松尾のもとに向かい、伝言した。凡退した打者はそのまま次打者席へ。中飛に倒れた松尾から情報を得た海老根は言う。「変化球でカウントを取ってくる投手。データとあまり印象が変わらなかった」。2-1から迷わずスライダーを振り抜いた。

西谷監督は意図を説明する。「ビデオで見たのと、実際、打席に立って、どう違うか。ちょっとシュート系が多いとか。変化球はこんな曲がりとか。次の回になると、即効性がない。より、1秒でも速く」。そして、涼しい表情で続けた。

「普通だと思いますよ」

いや、普通ではない。この日は横浜、二松学舎大付など5校もプレー。試合序盤、打者走者の装着具を受け取った控え選手は出番を待つ打者を素通りしていた。大阪桐蔭だけが違う。相手が継投に入った5回、再び同じ伝達で、初対戦の投手を攻略する徹底ぶりだ。

逆転勝ちした10日の旭川大高戦は12個のフライアウト。翌日の練習で「よりたたいて、甲子園バッティングをしていこう! 低い打球!」と言い合った。フリー打撃は前方の防球ネットの下を狙った。長打も武器だが、この日は単打が実に20本。先発全員安打も決めた。名将は「大量得点よりも、9イニングのうち、8イニングで点数を取れた。丁寧に積み重ねられた」と言う。優勝候補の大本命にエンジンが掛かってきた。【酒井俊作】