仙台育英(宮城)を東北勢悲願の甲子園初優勝に導いた須江航監督(39)は17年12月まで同校系列の秀光中(軟式)の監督を務めていた。当時から目指す野球が明確に確立されていた。16年11月24日の東北版に掲載された「秀光中野球の秘密」を再録した。(肩書は当時)

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仙台育英系列の秀光中教校(宮城)軟式野球部の勢いが止まらない。11月5日に春季全日本東北予選を勝ち上がり、来春17年3月の全日本少年軟式野球春季大会の出場を決めた。10年から続く8年連続全国大会出場は、全国最長を誇る。14年の全日本中学軟式野球大会では西巻賢二主将(現仙台育英2年、主将)を擁し、初の日本一に輝いた。鉄壁の守備と徹底した走塁を武器に、創部12年目にして常勝軍団に育て上げた須江航監督(33)に、強さの秘密を聞いた。

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1つの敗戦から、全国屈指の常勝軍団が生まれた。あと1歩で全国初出場を逃した09年夏からグラウンドに掲げ始めた「日本一からの招待」は、いまや秀光中の代名詞として定着した。

「09年のチームはのちに仙台育英で甲子園に出場したエース渡辺郁也(現青学大4年)と5番早坂和晋(現同志社大4年)がいたのに勝てませんでした。このメンバーで全国大会に行けないのだったら、日本一から招かれるぐらいに徹底的に野球を突き詰めないと、日本一になれないと思いました」

まずは野球というスポーツの競技性を理解することから始めた。すると翌年から全国へ道が開け始めた。

「野球はサッカーや、バスケットなどの球技と比較して、ボールを持っている方が守備という特殊なスポーツ。よって主導権は守備側にあります。ゲームを支配するということは、攻撃の時間をいかに長くして、守備の時間をいかに短くするか。僕たちはポゼッションと呼んでいます」

攻撃の時間を長くするには出塁が鍵となり、得点するしかない。導き出した結論は得点のための走塁面の強化だった。

「野球は無死一塁からアウトと引き換えに塁を進めても、1死二塁、2死三塁となってホームにかえって来られない。塁をまたぐか、アウトと引き換えないで塁を進まないといけない。打者で塁をまたぐには二塁打、三塁打、本塁打。走者として塁をまたぐには一塁→三塁、一塁→本塁、二塁→本塁の3パターンあります。点を取るために走塁は欠かせません」

盗塁練習や、打球判断の訓練では実際に外野や内野に線を引いて基準を定めて落とし込んだ。打撃では狙い球に統一感を持たせた。

「野球を突き詰めていくと、結局ストライクを振って、ボールをいかに見逃すかなんです。勝率の高いチームはボール球を振りません。ウチは打つべき球か、見逃すべき球かの判断を徹底させています」

そのために導入したのが共通言語。1人1人身長差があるから野球では「高めを狙え」といっても個人差が出てくる。

「体の部位で表現します。ホームベースの横幅には7個のボールが入るので『ど真ん中になる太ももの4、5、6番は打て』『膝は見逃せ』『胸は振れ』という指示になります。部位で縦軸を決め、ボールの位置で横軸が決まり、そこに奥行きが加わる。ストライクゾーンは3次元なんです」

一方、守備の時間を短くするために、ストライクの取り方にこだわった。

「投手側は(1)見逃し(2)空振り(3)ファウルの3つ。捕手側からすると<1>球種<2>タイミング<3>コースを外すことが狙いになります。バッテリーはひたすらこれを試していくと、1球1球に意図が出てきて無駄球が減ります。不用意な失投もなくなり、被打率も自然と下がっていきます」

守備では、出現するエラーを2つに分類した。

「アウトカウントが3、ストライクカウントが12、走者のケースが8。最大288個のどれかの形が本番に出てきます。技術的に失敗するのはスキルエラー。判断を間違って犯すのがシステムエラー。ウチはスキル練習とシステム練習に分けています。攻撃も守備もまずスキルエラーをなくしていきます。システムエラーは288個のパターンを大まかに分けて、訓練していきます。サッカーにたとえるならセットプレー練習ですね」

とことん野球を突き詰めた結果、14年夏の全中は優勝。15年は準優勝、16年は3位。今年こそ2度目の日本一に招かれてみせる。

「今年の投手陣は全国屈指の自信があります。守備力が上がれば、走塁力はあるので、負けないチームにはなる。攻撃の整理が出来れば、日本一に招かれる可能性は十分にあるでしょう」

【取材・構成=高橋洋平】