5度の甲子園優勝を誇る横浜の元監督、渡辺元智氏(77)が今夏の甲子園を「深掘り。」する企画の後編では、東北勢悲願の「白河越え」を成し遂げた仙台育英(宮城)の決勝を振り返る。また2年連続で1都6県から1校も8強に残れなかった関東勢を分析。テクニックではなく「王道の野球」を極める重要性を説いた。【聞き手=酒井俊作、保坂恭子】

    ◇    ◇    ◇  

仙台育英が2枚も3枚も上手でした。普通なら、投手5人が大会通じていい投球を続けるのは、なかなか難しいことです。緊張感も出て、マイナス面が出るものです。決勝まで勝ち進んで、どんどん状態が上がっていた。走塁も見事でしたね。下関国際左腕の古賀君は投球時、左手がお尻の後ろに伸びる。リリースに来るまでの時間が長い。走者もそのあたりの特徴をとらえていたのではないか。ディレードスチールもフェイントをかけていました。意図的に、ちょっと帰塁したと見せかけてスタートを切る。ヒットエンドランの精度も高かった。須江監督の指導を選手が理解していました。1日でできるものではありません。時間をかけて取り組み、甲子園で戦いながら実りました。

下関国際は限界だった。大阪桐蔭、近江を破って決勝に進みましたが、近江戦くらいの力を発揮できれば勝てるチャンスはあったと思います。だが、ピークはそう何試合も続かないものです。下降線だったと思います。2番手の仲井君は7回が限界で力尽きた。それでもまさに1球入魂の投球で、放送席から見ていて、本当に感動しました。

関東は、みんな同じような野球になっているように見えます。神奈川から言えば東海大相模の門馬(敬治)監督が抜けたことは大きな損失。茨城も、木内(幸男)さんが亡くなって群雄割拠。最近の関東は王道の野球ではなく、細かい野球、テクニックに走るチームが多い印象です。

関東同士でやる練習試合が多いから、その影響があると思う。強くなるには、近くにいいライバルがいること。私は、原貢さん(東海大相模元監督)。東海大相模を負かすには、技じゃない。力には力をもってやらないかんと思った。東海大相模に費やした時間は長かったが、これはもう力であそこを破らなきゃ絶対勝てないと鍛えた。今、近畿は大阪桐蔭がいることで、そういう状況にあるんじゃないでしょうか。

東北も近くに強いチームができて、どんどん交流試合ができて、環境があることは大きい。関東は、低迷時期に入ってしまうかも分かりません。「大阪桐蔭みたいなチームはできない」ではなくて、「大阪桐蔭みたいなチームを作るんだ」という目標で、きちっとした野球を目指してほしい。細かな野球は面白いように見えますが、実はそこに大きな落とし穴がある。イノベーション野球と言われますが、僕はプロ野球でやればいいと思う。人間には考える力がある。高校生は自分のIQで、どうやったら強くなるのか考えてほしい。

これはシニアにも言えることで、あまりにも細かい。指導者が勝ちに急いでいる構図が見え隠れします。小学生は、ボールで遊ばせたらどうでしょう。遠くへ投げさせるからストライクが入らない。近くで放ればいいんです。僕は(孫の渡辺)佳明(現楽天)と当時、5メートルくらいのキャッチボールだけ。胸の高さに30球だよと。グラブは動かさない。そしてだんだん距離を伸ばしていった。小学生はもちろん、中高生も成長の段階。成長を見守ってあげることも大事だと思います。

◆渡辺元智(わたなべ・もとのり)1944年(昭19)11月3日、神奈川県生まれ。横浜高では中堅手。神奈川大から65年に母校コーチを務め、68年に監督就任。73年春に甲子園初出場初優勝。夏は80年に初優勝した。98年は甲子園春夏連覇し、明治神宮大会、国体も制して4冠達成。公式戦44連勝した。甲子園は春夏27度出場して5度優勝、歴代5位の51勝。15年夏の神奈川大会を最後に勇退した。