国際化が進み、多様化した現代社会にあって、高校野球も海外にルーツを持つ有力選手が目立ってきた。今回は10月20日のドラフト会議の候補にスポットを当てる。誉（ほまれ、愛知）のイヒネ・イツア内野手（3年）はナイジェリア人の両親を持つ超高校級内野手。高校18本塁打と遊撃守備で注目される。また、日本航空石川の内藤鵬（ほう）内野手（3年）は高校53本塁打を誇るスラッガーで両親は中国人だ。主将としてチームをまとめ、この夏も奮闘した。
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夏の盛りだった7月の愛知・小牧で、思わず目を奪われた。誉のイヒネだ。愛知大会初陣の中部大第一戦。追いつかれた8回、速球を打ち、右翼に決勝3ランを放った。巨人水野スカウト部長も「手足が長い。動きもいい。体の力もある」と評した逸材に偽りなし。
両親がナイジェリア人で名古屋市出身。親とは日本語で話すという。「ほしいところでホームランを打てる打者になりたい」と意気込み、ソフトバンク柳田に憧れる。プロ志望届も出し、日々、後輩と汗を流す。
日本で生まれ育ったが、気質はユニークだ。矢幡真也監督（49）は「私の現役時代、チームメートにキューバ人がいました。考え方がとても似ている」と明かす。社会人の阿部企業で同僚だったルルデス・グリエル内野手だ。14年にDeNAでプレーし、21年にアストロズで首位打者に輝いたグリエルら、大リーグで活躍する兄弟の父でもある。
「大丈夫、大丈夫。俺、やるから大丈夫だよ」
楽天的な性格だという。監督は続ける。「こっちが理解してあげるのも大事」。個性を受け止める一方で日本らしさも伝えた。「日本人のわびさびを教えないといけない。礼儀や恩義。口酸っぱく言いました」。教えてもいないのに、守備につくとき、帽子をとって定位置におじぎするようになった。「野球の神様がいる」と本人。ちょっとほほえましい。監督には節目に母から連絡が入る。クリスマス、正月…。この夏は3回戦敗退。「オセワニナリマシタ。コレカラモタノミマス」。片言の電話に感謝がこもる。親の律義さは息子へのまなざしでもある。
入学当初、過酷な筋力トレーニングに音を上げて涙を流した青年は変わった。ライバルを問われると、引き締まった表情で言った。
「ホウはすごい選手。僕が勝っているとは思いません。でも、同じチームだったので、負けたくない」
イヒネは日本航空石川で53発の右打ちスラッガー、内藤を意識している。中学野球の名門、愛知・東山クラブで、しのぎを削った。内藤も、プロ注目の好素材だ。アピールポイントを問われ「打撃の飛距離。チャンスでの1本を見ていただきたい」と胸を張った。
原点はテレビで見た本塁打だ。「中田翔さんは自分が野球を始めて、初めて野球を見て、特大ホームランを打った。それが印象に残っている」。中国人の両親から日本で生まれ、いつも野球が近くにあった。幼いころ、日本ハムの中田（現巨人）に魅了された。同じ右打ちで大アーチを思い描く。普段は両親と中国語で会話するのだという。試合前、親からLINEが届く。「頑張れ」。なぜか日本語で書かれたメッセージに、心は後押しされてきた。
この夏は主将として束ねた。中村隆監督（38）は新チーム結成前、上級生に主将を決めるアンケートをとった。「満場一致で内藤がいい、と。誰よりも練習態度、姿勢が厳しい。率先して雑用、準備もやれる」と信頼する。同校には内藤と中学で同級生だった生徒がいる。監督は当時のことを聞いたという。「人気者でした。昔から人が寄ってきます。引きつけるモノがあった」。グラウンドでのリーダーシップに納得した。
野球に「国境」はない。多くの外国人が日本で暮らすようになり、海外がルーツの高校球児は、これからも増え続けるだろう。野球を通して自分を高め、仲間と1つの目標に向かって打ち込む姿を見た。野球が持つ磁力に触れた気がした。
○…強豪の大阪桐蔭でも両親がスリランカ人の右の1年生スラッガーが奮闘している。ラマル・ギービン・ラタナヤケ内野手は3日、秋季大阪大会2回戦の桜塚戦で公式戦デビュー。いきなり本塁打を放った。前日25日はベンチスタートだったが、5回に代打で登場し、四球を選んだ。試合前のシートノックでは三塁を守った。西谷浩一監督（53）は「長距離というか（打撃の）飛距離でいいモノを持っていますね。これからですね」と評価する。日本生まれで、中学時代は愛知港ボーイズでプレーした。さらなる成長に期待が高まる。
◆近年のおもな海外ルーツ有力選手 今秋ドラフトでは米国人の父を持つ常総学院（茨城）のバルザー・ジョセフ・ブライアン投手（3年）がプロ志望届を提出し、最速154キロ右腕に注目が集まる。昨秋ドラフトでは、中日が1位でガーナ人の父を持つブライト健太外野手（23）を指名。高校時代は葛飾野（東京）でプレーした。また、ソフトバンク育成5位で田中怜利ハモンド投手（18＝帝京五）が入団。長身191センチで、父はナイジェリア人だ。
