大阪桐蔭が最強を証明した。聖光学院(福島)を5-1で下した。阪神のドラフト1位候補に挙がる松尾汐恩捕手(3年)が5回に高校通算38号のソロ本塁打を放ち、突き放した。国体は4年ぶり4度目の優勝だが、単独優勝は初めて。

昨秋の明治神宮大会、3月のセンバツに続く「3冠」を達成した。阪神は高松商・浅野翔吾外野手(3年)も1位の有力候補に挙げているが、松尾も負けじと「有終アーチ」で勝負強さを見せつけた。

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最後の最後まで攻め抜いた。これが大阪桐蔭の強さだ。3点リードの5回、松尾のひと振りで、一気に流れを引き寄せた。初球カーブをとらえ、左翼席へ。西谷浩一監督(53)を「あの1点は大きかった」と言わしめた。鮮やかな「有終アーチ」だ。阪神のドラフト1位に挙がる逸材が、無類の勝負強さを発揮した。

「ここ一番の試合で力を落として(リラックス)できる。何か持ってるんじゃないかな(笑い)。最後の試合。自分のなかで一番うれしいホームランでした」

1回からたたみかけた。松尾も左前打でつなぎ、3点を先制。7回も左前打の3安打で締めくくった。

あの悪夢を全員で乗り越えた。8月18日の夏の甲子園準々決勝。1点リードの9回に暗転した。下関国際(山口)を後押しする声援にのまれ、逆転負けした。3日に国体準決勝で再戦。星子天真主将(3年)がその日の朝、ミーティングで言う。「どうせならリベンジしようぜ。2回も負けられない」。仲間は闘志がわいた。試合直前の円陣。ムードメーカーの吉沢昂記録員(3年)が口を開いた。

「星子がこう言ってたけど、俺は勝たないといけないじゃなくて、負けられないじゃなくて、俺らの野球をするだけじゃないかと」

虚をつかれた。全員がわれに返った。一打二進の全力疾走、徹底したベースカバー…。2年半の日々を出し切るだけだった。淡々と勝ちきるのが王者だ。堂々たる歩みで頂点に立った。

大阪桐蔭には「吉兆」がある。国体優勝した過去3度はドラフト1位指名選手が輩出。12年阪神藤浪、13年西武森、18年中日根尾、ロッテ藤原。10月20日のドラフト会議が迫る。阪神は高校68本塁打の高松商・浅野の1位指名も検討するなか、松尾は虎と縁がある。

「自分は右や!」

幼い頃からモノマネが得意だった。球場で阪神戦を観戦し、感化されたのが、10年に47本塁打のブラゼルだ。左打ち大砲のヒッティングマーチを奏でながらティー打撃するのが日課だった。強い者にあこがれる。実は小学生当時からタテジマを見ながら育っていた。

刻一刻と人生の岐路が迫る。「やるべきことをしっかりやって、指名を待ちたい。チームを勝たせられる選手になりたい」。天真らんまんで愛される好青年はキリリと表情を引き締めた。【酒井俊作】

◆松尾汐恩(まつお・しおん)

◆生まれ 2004年(平16)7月6日生まれ、京都府出身。

◆球歴 川西小1年から野球を始める。精華中では京田辺ボーイズに所属し、3年夏にボーイズ日本代表選出。

◆初の甲子園 初の聖地は2年春。智弁学園との1回戦に途中出場も敗退。

◆甲子園1号 2年夏の近江との2回戦で初の本塁打もチームは敗れた。

◆神宮決勝で2発 2年秋の神宮大会決勝の広陵戦で2本塁打し、初優勝に導いた。

◆2本塁打でV貢献 3年春の甲子園では、準決勝の国学院久我山戦、決勝の近江戦で2試合連発し優勝を飾った。

◆甲子園通算5本塁打 3年夏2回戦聖望学園戦で2本塁打し、史上10人目の甲子園5号に到達。チームは準々決勝で下関国際に敗退。

◆U18W杯ベストナイン 今秋のU18W杯に出場し銅メダル獲得。ベストナインにあたる「オールワールドチーム」に選ばれた。

◆ユーティリティー 高校1年で内野手から捕手に転向。遊撃手の経験を「自分は内野をできるのも売り」とアピール。

◆サイズ 178センチ、76キロ。右投げ右打ち。50メートル走6秒1。二塁送球1秒87。

▽大阪桐蔭・西谷監督(松尾と同じ捕手の同校OB西武森の高校時と比較して)「スピードは断然、松尾の方がある。足の速さ、守りの機敏さ。肩は森も悪くない。ショート、内野ができる捕手。森はショートはできないと思います(笑い)。森さんと比べられる選手になってほしい。(松尾は入学時)ショートで育てようと思っていたので」

○…「松尾人気」が急上昇中だ。国体期間中、一塁側客席には望遠レンズのカメラを構えた女性ファンが殺到。松尾が打席に入ると、一斉に構えてシャッターチャンスを狙っていた。キリッとした顔つきで、インターネットの検索ワードで「イケメン」と出るほどだ。これまでも、女子高校生の集団が悲鳴を上げながら記念写真を求める光景もあった。この日、松尾は「(入学時)あまり勝ちたいという気持ちの強さがなかった。負けん気の強さを一番成長させてもらった」と硬派な素顔をのぞかせたが、注目度は日ごとに増している。

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