夏の地方大会に負けないくらいの熱気に包まれた。今回の「アマチュア野球特集」は、ともに汗を流した3年生部員たちの引退試合に密着した。6月22日に東京・稲城市のジャイアンツタウンスタジアムで行われた駒大高と聖パウロ学園(ともに西東京)の引退試合は、最終学年世代の晴れ舞台だった。駒大高の選手と保護者たちから話を聞き、特別な時間を通して見えてきたものとは。【田島優大】
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ずっとこの場で野球をしていたかった。巨人ファーム本拠地のジャイアンツタウンで行われた駒大高と聖パウロ学園による引退試合は、同じ目標に向かって歩んできた3年生たちにとって格別な一時だった。
東京ドームと同じ中堅122メートル、両翼100メートルの人工芝球場でプレーできることに、選手たちはみな心を躍らせた。試合中は終始、笑顔が絶えない。1球、1打ごとに「千葉、センターいったぞ~」「奥野、外野バック~」「藤江、球きてるから大丈夫だ~」といった掛け声がグラウンドから聞こえてくる。3年間ともに汗を流し、ときには涙を流した仲間を思うような全力プレーが続いた。試合終了が迫ると、名残を惜しむ表情の部員もいた。3時間にわたる熱戦の末に、駒大高が5-4で競り勝った。
駒大高は3年生32人のうち、メンバーに入れなかった14人を中心に全選手が試合に出た。そのうちの1人、今村龍成投手(3年)の言葉が印象的だった。試合前には「自分たちのことを第一に考えて支えてくれていた方々に恩返しがしたい」と力強く口にしていた。
今村の父・穣(みのる)さんは野球部の父母会会長。チームと保護者の橋渡しを担う仕事は多岐に渡る。父親たちはグラウンドの草刈りなど環境整備を行い、母親たちは選手たちの体を気遣った食事を用意するなどチームを支える。時には合宿に同行し、塁審なども担う。秋の文化祭「駒高祭」ではラーメン販売をしたり、冬にはグラウンドで炊き出しを実施したり。チームの年間スケジュールに沿って、いつ、誰が、どんな場面で必要になるかと綿密な計画を立て、各保護者の協力体制を整えるのが父母会長として大きな仕事だ。
1年~3年までの部員S86人の保護者の先頭に立って選手たちを支える姿を間近で見てきたからこそ、今村もこの試合にかける思いは強かった。「どんな結果になろうと自分が納得するかたちで悔いなくやり切りたい」。
保護者にとっても、引退試合は特別な瞬間だ。父母会が中心となって運営し、ここ数年は聖パウロ学園と試合を行ってきた。毎年私営のグラウンドを確保するのは駒大高の父母会長が担当し、グラウンドの使用料などは両校で折半する。今回選んだ会場は巨人ファーム施設のジャイアンツタウン。父母会長の穣さんは「両校の3年生のために球場を取る責任を強く感じました」と力を込めた。
高校の硬式・軟式野球部を引退する3年生を中心としたチームの記念試合に限って、スタジアムを有料で貸し出す「高校野球引退試合『ラストゲーム』応援プロジェクト」の存在を知り、すぐさま応募。「当選発表日は朝からソワソワして、電話で当選していることを聞きホッとしました」と振り返り、「最後まで諦めずに戦う選手たちの姿に感動しました。選手権に向けてチームがより一つにまとまり、勢いのつく素晴らしい試合になりました」と感謝した。
保護者と選手が一体となって作り上げた空間は、大会に負けない熱量があった。試合のサポートに回った下級生たちも感謝の思いを込めて、のどをからしながら声援を送っていた。公式戦だけが高校野球ではない。仲間や家族と過ごした濃密な3時間は、まさに「青春」と呼ぶにふさわしい時間だった。
〇…Gタウンでの引退試合は、「高校野球引退試合『ラストゲーム』応援プロジェクト」として今年から始まった。昨年3月に開業された同球場では高校野球や大学野球の公式戦も行われているが、試合開催はファーム戦と比べれば少ない。「プロ野球でも使われている球場でプレーしてみたい」という球児たちからの声が多く寄せられたことをきっかけに、高校の硬式・軟式野球部を引退する3年生を中心としたチームによる記念試合などで特別に貸し出す企画をした。
6月~8月の計5日間の日程で1枠につき3時間使用できる形で、9枠の募集をかけた。募集開始から応募が相次ぎ、担当者は需要の高さを実感した。来年以降の開催は未定だが「また使っていただけるよう、環境を整えていきたい」と継続開催に意欲を示している。
◆引退試合 夏の地方大会前に行われるのが一般的で、横浜隼人と横浜商大高の一戦が先駆けとされる。約30年前から現在も続く両校の恒例行事で、ベンチ入りできなかった3年生にも最後の活躍の場を与えたい思いから始まった。毎年6月下旬ごろ会場は神奈川高校野球の聖地・横浜スタジアムを借りて行う。横浜隼人・水谷哲也監督(61)によると、教え子の結婚式では、この引退試合の写真が使われることも頻繁にあるという。夏の地方大会敗戦後に実施する学校も少なくなく、同じ神奈川の横浜は全3年生を対象に11月に開催と時期をズラす動きもある。

