<高校野球福島大会:聖光学院4-0須賀川>◇28日◇決勝

 一回り大きくなって甲子園に帰ってくる。昨夏8強に進出した聖光学院のプロ注目右腕、歳内(さいうち)宏明投手(3年)が、全国高校野球選手権福島大会決勝で圧巻の奪三振ショーを演じた。決勝で須賀川を3安打17奪三振完封。チームを福島大会史上初の5連覇、8度目の出場に導いた。最速145キロの直球と「魔球」スプリットを駆使し、全6試合で34回2/3を投げて60奪三振。東日本大震災、福島第1原発事故で苦しむ地元のために、今度は全国制覇の明るいニュースを届ける。

 東北最強右腕が、決勝をも奪三振ショーの舞台に変えた。この日は最速140キロながら、「落ちる魔球」スプリットが抜群。須賀川打線がワンバウンドにも手を出し、カットするのも難しいほどの球速で沈んでいく。3回先頭からの5者連続を含む、17奪三振。許した3安打はすべて直球で、スプリットは1度も前に飛ばされなかった。三塁を踏ませることはなかった。

 7回に降り出した雨も気にしない。放射線量が高かった原発事故後、練習が降雨即中止だったことを思えば、投げられるだけでいい。県内公式戦61連勝、大会5連覇を決めても、特別な夏は変わらない。はしゃぐことはなかった。

 準決勝で左背筋を痛めながらも、大会通算34回2/3で計60三振を奪った。兵庫出身で、楽天田中と同じ宝塚ボーイズ出身。豪快なフォームの代償として腰痛に苦しんだ。ブレークした昨夏の甲子園から国体、秋季東北大会と続いた連投で悪化。血流が悪くなって神経を圧迫し、常に足がしびれるほどの状態だった。

 センバツ出場を逃してからが、進化の始まりだった。まずは肉体改造に着手。斎藤智也監督(48)の運転で仙台に通い、3カ月かけて筋肉の深部までほぐした。楽天岩隈の高校時代を担当していた大高茂トレーナー(38)とも契約し、左足に体重を乗せて体を開かない、ケガをしにくいフォームに修正した。

 同時に「甲子園の連投にも耐えられるスタミナづくり」に取り組んだ。体重は昨夏から10キロ増の82キロ。食事量は変えず、スクワットなどで下半身の筋肉量だけ増えた。ズボンが裂けそうなほど隆起した太ももが支える直球は、昨夏の142キロから145キロに。「真っすぐでも三振が取れるようになり、スプリットも生きた」。直球と同じ腕の振りでストライクゾーンから落ちる球に、相手打線は次々とバットを泳がせた。

 震災後は父や仲間の親の車を乗り継ぎ兵庫に一時帰宅したが、滞在は5日間だけで3月24日に戻った。翌25日から練習再開。「他の県の人が思うほど、原発が怖いとは思わなかった」。地震前日の3月10日から約4カ月、主将も経験した歳内は「震災と野球を結びつけるつもりはない」と話すが、福島に戻ると物資運搬のボランティアを行い、原発から避難していて卒業式を行えなかった児童を「旅立ちの式」で祝った心やさしい一面もある。

 昨夏の8強から頂点を狙う甲子園。「兵庫で生まれたけど、今は福島の代表。試合になれば、被災県とか関係ない。ひた向きに日本一を目指す」。これまで以上の「重み」を背に、甲子園に舞い戻る。【木下淳】

 ◆聖光学院

 1962年(昭37)に聖光学院工業高校として創立した私立校。77年、現校名に改称。79年に男女共学になった。生徒数は684人(女子153人)。野球部は学校創立と同時に創部。部員126人。甲子園出場は春2度、夏8度目。所在地は伊達市六角3。新井秀校長。

 ◆Vへの足跡◆2回戦10-0小野3回戦11-1田村4回戦10-0喜多方準々決勝7-1白河準決勝5-0いわき光洋決勝4-0須賀川