<高校野球宮城大会:仙台育英2-1東北>◇23日◇決勝◇Kスタ宮城

 仙台育英が、ライバル東北を下し、2年ぶり23度目の夏の甲子園出場を決めた。2回、ケガから復帰した伊藤健太内野手の適時打などで逆転。右腕エース渡辺郁也も、2回以降は安定した投球でリードを守りきった。県内トップの実力を誇りながら、昨秋県大会は準々決勝で敗退。どん底まで落ちた名門は、昨冬の「涙のミーティング」で結束を深め、控えの小杉勇太主将(いずれも3年)を中心にチームワークを築いてきた。

 両手を突き上げるエース渡辺を中心に、歓喜の輪ができていく。1度崩れるほどの勢い。ベンチから駆けだした選手の目には、涙が浮かんでいる。みんなで苦しみ、2年ぶりに上り詰めた頂点だったから。澄み渡る青空に向かって人さし指を突き上げ、喜びを分かち合った。小杉主将は「この時のためにやってきた。今はうれしくてしょうがない」と男泣きした。

 0-1の2回1死一、三塁。8番伊藤が中前に運び、先頭で二塁打を放っていた5番早坂和晋外野手(3年)が生還して追いついた。左太もも肉離れで春を棒に振った2人。「夏に絶対、俺たちが見せてやろうぜと話していた」(伊藤)。辛酸をなめてきた男の意地を見せられ、チームが乗らないはずがない。勢いそのままに、1番高橋竜之介内野手(3年)が適時打を放って逆転。1県1代表制となった78年以降、決勝で7勝6敗と互角の戦いを演じてきたライバル東北を、そのまま振り切った。

 試合後、背番号15の小杉主将は、万感の思いで1年を思い返した。「つらい冬だった」。厳しい練習のことではない。結果が出なかった昨秋、チームは空中分解した。まとめ役の小杉主将、宮下礼グラウンドマネジャー(3年)の耳には、統率力を問う声が間接的に入ってきた。応援やサポートに回るベンチ外メンバーの不満も爆発。佐々木順一朗監督(52)が「3年生は異様に仲が良い」と話すチームは、どん底まで落ちた。

 宮下は、ストレスで顔中にニキビができた。「何かあったの?」と周囲に心配され、10円玉大の円形脱毛症にも見舞われた。小杉は「小さなカップ麺も食べられなくなった」と激やせ。練習も芯が通らない。昨年12月のある日、小杉は意を決して「練習をつぶして、話し合いをさせて下さい」と佐々木監督に申し出た。

 「涙のミーティング」は4時間に及んだ。腹の中でくすぶっていた思いを、包み隠さずぶつけ合った。おえつも響く中、控え組が言ってくれた。「俺たちを、甲子園に連れてってくれ」。春は県大会を制し、東北大会準決勝では岩手王者の盛岡大付に0-8から逆転勝ち(11○9)した。渡辺は「あれがあったから、今がある」と断言する。「きつい言葉もあったけど、今考えればうれしいこと」と笑う小杉の体重は戻り、宮下のニキビも気付けば消えていた。

 厳しい状況でも、今はベンチとスタンドが一体となって戦える。2年ぶりに乗り込む甲子園。結束力を増したチームワークを武器に、全国の強豪に挑む。【今井恵太】

 ◆仙台育英

 1905年(明38)創立の私立校。生徒数は2390人(女子697人)。陸上部の駅伝は全国トップレベルで、硬式野球部は1930年創部で甲子園の常連。主なOBはヤクルト由規。所在地は仙台市宮城野区宮城野2の4の1。加藤雄彦校長。◆Vへの足跡◆2回戦10-0東北学院3回戦8-1塩釜4回戦5-1古川学園準々決勝7-0大崎中央準決勝9-1聖和学園決勝2-1東北