<全国高校野球選手権:桐光学園7-0今治西>◇9日◇1回戦

 前人未到の大記録が生まれた。「神奈川のドクターK」こと桐光学園・松井裕樹投手(2年)が、今治西(愛媛)戦で1試合22奪三振、連続奪三振10の2つの大会新記録を樹立。9回22奪三振は春84回、夏94回を数える大会史上最多で、「消える」とも称される曲がりの大きな縦スライダーで空振りを量産した。2安打完封し、打撃でも中押しの3ランとワンマンショー。日本中の高校野球ファンの視線をくぎ付けにした。

 「おお~!!」その瞬間、盛夏の甲子園が2万1000人の拍手と感嘆で揺れた。9回。桐光学園・松井が先頭打者に投じた126キロのスライダーは、バットのわずか上を通ってミットに吸い込まれた。過去93回の選手権で、誰もなしえなかった1試合20個目の三振。マウンドの左腕はフッとわずかに口角を上げた。立て続けの見逃し三振。ここで10者連続三振という、さらなる偉業を打ち立てた。

 「ちょっと出来過ぎです。数えてませんでしたし、記録も今知りました」。ヒートアップした周囲と対照的に、表情はあまりにクールだった。最後の打者も空を切らせ、記録を22に伸ばしてもガッツポーズすらなかった。もしかしたらこの大記録、そんなに意外じゃなかったのかもしれない。

 予兆はあった。神奈川大会も初戦で自己最多の17三振を奪うなど、6試合46回1/3で68奪三振。最速147キロを誇り、全国最多190チームが集う激戦区を勝ち抜いた。しかし最大の武器は直球ではない。「タイミングが合ってなかったし、力を入れれば取れると思いました」。手元で鋭く落ちるスライダーで取った三振は14個。「宝刀」が今治西のバットに当たったのはわずかファウルが4球、フェアゾーンに飛んだのは3度だけだった。

 昨年6月、「カウントを取る速い変化球がほしい」と独学で握りを研究した。曲がりが大きく、ブルペン捕手の堀江が「手首に当たるとボールの縫い目の痕がつく」というほどキレ味は鋭い。女房役の宇川に至っては、松井の変化球が捕れないとの理由で捕手をクビになった時期があるほど、そのキレには目を見張るものがある。

 有言実行の男だ。5回には公式戦初の右越え3ランも放った。実は、予告本塁打。神奈川大会で打率1割台ながら、試合前「おれのホームラン見とけよ」と宣言していた。そしてお立ち台の最後に「歴史を塗り替えたことはプレッシャーになる。でもそれに恥じない投球で勝ち進みたい」と言い放った。チームは7年ぶりの甲子園勝利。松井ならどんなビッグマウスも、実現させてしまいそうな説得力がある。【鎌田良美】<松井裕樹プロフィール>

 ◆生まれ

 1995年(平7)10月30日、横浜市出身。174センチ、74キロ。家族は両親と弟。

 ◆球歴

 小2で野球を始め、3年から投手。6年時に横浜ベイスターズジュニアチームで12球団ジュニアトーナメント出場。中3時には青葉緑東リトルシニアで全日本選手権優勝。桐光学園では1年秋からエース。左投げ左打ち。

 ◆球種

 カーブ、チェンジアップ、スライダー2種(縦変化と球速速いもの)

 ◆憧れ

 巨人杉内。リズムよくリリースまで力まない投球を参考にしている。

 ◆名前の由来

 名字に「松」が入るため、樹木に豊かに葉っぱがつくように。

 ◆好きな女性のタイプ

 女優武井咲。

 ◆好きな音楽

 ケツメイシの「君とつくる未来」がお気に入り。EXILEも聴く。