<高校野球岩手大会:宮古4-1花北青雲>◇19日◇3回戦◇森山総合公園野球場

 宮古が花北青雲に勝利し、6年ぶりの16強入りを決めた。震災の影響で専大北上から転校してきた4番阿部椋太(3年)が、5回に逆転の左越え2点適時二塁打。8回からはマウンドに上がり2イニングを無失点に抑えた。

 高々と舞い上がった打球は、風に乗って左翼手の頭上を越えた。0-1の5回1死二、三塁。宮古の4番阿部は、甘い内角球を逃さなかった。試合をひっくり返す2点適時二塁打。「今まで打ててなかったので、自分が返すしかないと思った」と支えてくれた仲間に向かって、二塁塁上で右手を握り締めた。

 みんながいたから、今がある。震災で山田町の実家が全壊した。私立の専大北上に入学したが「家のことも心配だったし、自分はどこでも野球はできる」。震災直後の11年4月、経済的な面も考えて公立の宮古に転校した。

 「みんなにどう思われるのかな」。不安を抱く阿部を、宮古の仲間はすんなり受け入れた。山田中野球部でチームメートだった佐々木雄登(3年)は「アベリョー(阿部)は県選抜のエース。力になるし、フレンドリーなやつだから大丈夫だと思った」と振り返る。父達也さんは、野球道具を津波で流された阿部のためにグラブを用意した。息子と一緒に、山田町の仮設住宅で暮らす阿部の送り迎えもした。阿部の母裕美子さんは「宮古でみんなに支えてもらった」と感謝する。

 この日、先発のマウンドに上がったのは背番号3の佐々木雄。7回1失点と力投し、エースナンバーを背負う阿部が残り2イニングを無失点で抑えた。4番でエースの大黒柱は「感謝してもしきれない。今は楽しい。幸せです」とかみしめるように言った。恩返しの夏は、まだ終わらない。【今井恵太】