<全国高校野球選手権:作新学院17-5桜井>◇10日◇1回戦

 30年前の夏、父が見た景色と変わらないマウンドへ、作新学院(栃木)の1年生朝山広憲が小走りで向かった。6回。4万3000人の観衆の前で、初球136キロの直球でストライクを奪った。続けて108キロの緩いスライダーで追い込む。二飛に打ち取ると、連続三振で3者凡退に切った。「自分の120%の力を出させてくれる。甲子園はすごいなと思いました」とかみしめた。9回に失策が絡み2失点したが、4回4奪三振で3年連続の初戦突破に貢献した。

 父憲重さん(48)は、83年夏にPL学園(大阪)の5番主将として、全国制覇を果たした。当時1年生だったのが桑田真澄氏、清原和博氏の「KKコンビ」。自宅には当時のメダルやトロフィーが並ぶ。朝山は「桑田さんは練習試合で10失点したことがあったけど、努力を重ねて優勝投手になった」と聞かされてきた。

 高校入学後も、桑田氏を目指して、全体練習後に1日3キロ走り込んだ。当時トイレ掃除をしていたと聞くと、毎朝1人で寮のトイレを磨いた。「甘いボールでも、バッターが打ち損じてくれる。運が来ると思う」と「心の野球」を信じた。

 憲重さんとは、幼少時から一緒にバッティングセンターに通い、中学では真岡ボーイズで監督と選手として過ごした。父の縁で1度だけ、桑田氏が会長を務める麻生ジャイアンツと試合をした。桑田氏からは「7割ぐらいの力で投げれば、いいボールがいく」とアドバイスを受け取った。

 「KKコンビ」と同じく1年生で立った聖地。朝山は「まだまだ桑田さんのようにはなれないけど、3年生と1日でも長く野球がしたい」と言った。あの夏のように、1歩ずつ頂点を目指して進んでいく。【前田祐輔】