<高校野球岩手大会>◇22日◇4回戦

 昨年の甲子園で春準優勝、夏4強の花巻東が0-8で盛岡中央に7回コールド負け。応援に駆けつけた西武雄星(19)に勝利をプレゼントできなかった。

 立っていられなかった。ひざから崩れ落ちた。花巻東が負けた-。ナインはその現実を受け入れることができない。盛岡中央の校歌がかき消されるほどの涙、涙、涙。なんとかベンチ裏に下がるが、廊下に突っ伏しおえつする。うおおおおー。なんでだー。クソォォオー。涙だけでは悔しさを表現できない。腹の奥底から出る魂の叫びだった。

 今年のチームには、雄星のような絶対的なエースはいなかった。昨夏甲子園の準決勝で先発した左腕・吉田陵が先発したが、2回0/3、2失点で降板。続く左腕・長原拓も1回1/3で2失点。絶望的な点差にも、花巻東らしくベンチは明るく声を出し続ける。それでも状況は好転しなかった。

 「雄星さんの『1』ではなく自分の背番号と言われるような投球をしたい」。大会前、そう話していたエース右腕・伊藤創(いずれも3年)が3番手で救援したが、1回2/3で4失点と炎上。佐々木洋監督(34)は「失策も3。自慢の守備力を発揮できなかった」とうつむいた。

 スタンドでは、雄星が試合開始から見守った。「後輩の試合はずっと気になってた。日本一を目指してほしい」。点差が大きくなるにつれ表情も曇る。それでも攻撃時はメガホンを持ち、高校時代のように大声で声援を送った。

 その先輩たちとともに、佐々木大樹主将(3年)は昨夏の甲子園で戦った。同1回戦の長崎日大戦では8回無死満塁から逆転の3点二塁打を放つなど、スポットライトを浴びた。だが「去年のことは思い出したくなかった」。比較され続けることが、つらかった。口癖のように言い続けた言葉がある。「雄星さんだけじゃないってことを証明したい」。甲子園出場は果たせなかった。それでも全力疾走しつづけた花巻東の野球に、球場全体が拍手を送った。【三須一紀】