米野球殿堂の館長が今月24日で交代し、ジェフ・アイドルソン氏(54)が25年勤務した殿堂を去る。まだ若いのになぜ、優秀な人材なのに残念と、惜しむ声が多い中での退任だ。

アイドルソン館長といえば、マリナーズの球団会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏(45)と親交が深い。イチロー氏が大記録達成間近というときになると、必ずといっていいほど館長が球場に現れたのでは、というくらい記憶に残っている。イチロー氏がマーリンズに所属していた2016年、ピート・ローズ氏が持つメジャー最多安打の4256安打を日米通算で間もなく超えようとしていたとき、館長もマーリンズの本拠地マイアミまで来て、記録達成をその目で見ようと連日球場に通っていた。そのときに館長と会話をする機会があったが、仕事というよりプライベート的な訪問というニュアンスだったので、館長にとってイチロー氏はそれだけ特別な存在なのだろうと思った。

そんな館長が退任を発表したのは今年2月4日だった。7月下旬の殿堂入りセレモニー後に退くということだった。ちょうどイチロー氏がマリナーズとマイナー契約を発表した10日ほど後のことだ。そのとき、イチロー氏は3月に東京で行われる開幕戦後も現役続行を目指すと伝えられており、球界周辺ではもしそれが実現しても今季が現役最後だろうという空気が漂っていた。イチロー氏は結局、その開幕戦で引退ということになったが、すると館長の方も時期を早め、6月で退任すると発表した。殿堂入りセレモニーというのは館長という立場の人にとって最も大事な行事のはずだが、それをあっさり捨てて、退任を早めたのである。

2人のキャリアがこれほどシンクロするのは、果たして偶然なのか。いや、もしかして館長にとって「イチロー」という1人の偉大な選手の存在は、自身の仕事のモチベーションになっていたのかもしれない。などと考えていたら、館長がスポーティングニューズ誌の電子版で退任前の最後のインタビューを受けており、在任中の思い出話としてイチロー氏のことばかり語っているので、その思いをますます強めた。館長は「博物館を訪れる選手を案内したことが、一番のいい思い出です。イチローは7度、常にお忍びで訪れ、来るたびに何が新しくなったかを聞いてきました。01年に初めて来たときは、野球アートについて知りたがっていました。多くの人はご存じないでしょうが、彼は実に万能型の教養人なのです」と話している。

そんなアイドルソン館長は退任後、子どもたちに野球を親しんでもらう活動をしながら、米大陸を5カ月かけて車で横断するという。映画や音楽でも有名な旧国道「ルート66」の約3800キロを走破する、夢と野球愛にあふれた旅路だ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)